第4章 旧友と看板娘 昔話と恋愛相談
土曜日ということもあり、サラリーマンやOLの溢れる金曜日とはうって変わって、一人飲みをしている奴や互いに着飾った男女のカップルなどが目に入った。
(ももと俺も、昨日はそう見えていたのだろうか…)
油断すると、すぐももの事を考えてしまう。
そんな事を考えながらいつもの席に着くと、この店の看板娘のニコ屋が注文を聞いてきた。
「あら、いらっしゃいトラ男くん。コラソン待ちかしら?」
「ああ」
「先に頼んでおく?」
「いや、少し待つ」
「分かったわ」
この店は酒の種類が豊富で、元々はコラさんに連れてきてもらった店だ。
店内の雰囲気も良く、“看板娘“であるニコ屋目当ての客も多いため、いつも繁盛している。
「なんだか、今日はいつもと雰囲気が違うわね?」
「…どうしてそう思う?」
「珍しく幸せオーラ全開かと思ったけど、ところどころ暗い影がある感じかしら」
…女の感は鋭い。
これはどの分野にでも言えることだ。
「まあ…まさにその通りってやつだな」
「あら、いつにもなく素直ね」
“珍しい“とニコ屋が呟くと同時に、コラさんが店内に入ってきた。
先程家を出てきたはずだというのに服は汚れ、息をゼェゼェさせながら。
「ま、またせたなロー…」
「いらっしゃいコラソン、どうしたの?」
「いや、道を歩いてたら子猫が轢かれそうになってて、助けようとしたら軽く俺が轢かれちまって…」
「だ、大丈夫なのか?」
「ああ、この通りピンピンしてるぜ!伊達に鍛えてないからなァ!」
体を鍛えるのもいいが、そろそろ“危機回避能力“というものも鍛えてほしい。
コラさんは昔から何かとトラブルに巻き込まれたり、何もない所でつまずき盛大にこけたりする。
それに喫煙年数も長いというのに、今もタバコに火をつける際にライターの火で髪やら服やらを焦がしたりしている。
俺も人の事は言えないが、早くパートナーでも作って安心させてほしいものだ。
まるで親のような、そんな考えが浮かんでしまう。
「フフッ、怪我がないなら良かったわ。コラソンもいつもので良いかしら?」
「ああ、頼む」
コラさんがそう言うと、ニコ屋が酒を作りにその場を離れた。