第8章 届かない宝 【カリム・アルアジーム】
「ふふっ。音がなくちゃダンスは踊れませんよ?」
立ち上がって手を繋いだままそういうから、俺は不思議に思って楽しそうな顔を覗き込んだ。
「音なら何時でも鳴ってるぞ?」
「………え?」
「小太鼓が何時も鳴ってるんだ。」
彼女が笑うと__トクトク。と小太鼓が鳴る。心地いいリズムで鼓動が当たり前の様に動き出すんだ。
「2人で居ると、心臓の音が良く聞こえるだろ?」
その音に合わせて足を動かすと、それに合わせて彼女もオドオドと動き出す。
「心臓…。私のは、もう少し早いリズムです…。」
照れくさそうにそう言った顔を見て、俺の小太鼓も景気よくリズムを上げる。
「そうか!!ソレならもっと早く動こう!!」
「ふっ、ふふっ。はいっ!!」
煩い鼓動と鈴のような笑い声があればソレだけで音楽など要らないし、身体は勝手に動く。
「…楽しいだろ!!一緒に踊るのは!!」
天気のいい中庭で手を取り合って踊り合う。腹の心地も丁度いいし、何ていい気分なんだろう。
「が居れば俺は何でも出来る気がするんだ!」
「………なんでも、ですか?」
小首を傾げる顔がゆっくり見たいと、足を止めた。