第6章 幸せの記憶 【ジャミル・バイパー】
「くくっ。来年、また悩む事になるぞ?」
「それも、ジャミル先輩の為なら嬉しいです。」
それだけでこんなに嬉しそうな笑顔が見れるなら私は幸せで、ずっと傍に居たいとそう思う。
「……なら、来年はお前を攫って2人きりで。」
「…そんなのカリムさんが許しませんよ。」
そして、その周りに沢山の人が溢れていたら…。
その幸せは絨毯から見た夜空みたいに何処までも何処までも広がっていくんだろう。
「ジャミル先輩の事が皆大好きなんですよ?。」
「…………俺は、好きじゃない。」
「またそう言う事を言う…。」
素直ではないこの人の幸せな記憶が、あの誕生日の宴だったのが何よりの証明だ。
「…けどまぁ。それもそれで良いのかもな。」
こんなに優しい目が出来て、こんなに鋭い人が、人の温かさに気が付かないなんて有り得ないんだ。
「お前のヘンテコな面が見れるなら悪くない。」
「な、なんですかヘンテコな面って。」
「くくっ、どんな顔も愛おしいと言ったんだよ。
そんな事も分からないのか?鈍い奴だな。」
「あ、……えっと…。」
この人が心から幸せになれる世界をいつか贈りたい。
「ありがとう、産まれてきて良かったよ。」
「わ、私も…産まれて良かった…です。」
そんな傲慢な願いを抱きながら、真っ暗な廊下で初めての口付けをした。
「……お前のその紅い顔が、1番の贈り物だ。」
__バクバク。と鳴る心臓を押さえつけて居るとジャミル先輩は心底面倒くさそうにため息をついた。
「だから、下手に考え込んでオクタの奴らを巻き込むな。…出来たら関わり合いたくないんだよ。」
「わ、わかりました。」
こういう所もこの人らしい。そう思うと、何だかやらたらと愛しく思えて私は勢い任せに飛びついた。