第1章 色違い 【ジャミル・バイパー】
「…………痛い…っ…。」
目頭が沸騰する様に熱く、身体の水分を抜き取られる心地の悪い感覚が悶えそうな程痛かった。
「俺には……っ…お前を引き止めたとしても、普通の女の幸せを…やることが出来ないから…っ…。」
運命は変えられると誰かが言っていた。
「俺のは………っ…逃れられない宿命なんだ。」
俺には運命など無い。生まれた時から決められた宿命だけが身体を巡る血と一緒にまとわりついている。
「………ジャミル先輩が嫌だって言うなら。私は何処にも行きませんよ。」
また小雨のような声で頭の中を揺さぶられた。
「貴方が隣に居るだけで幸せなんですから。」
そんな絵空事を信じてみたくなった。
「……幸せなんて………何処にもない。」
「じゃあ、作りましょうよ。」
「作れる訳が無いだろう……決まっている。」
頼りない俺の声に小雨がまた降り出して__クスクスと雲の切れ間から差し込む光の様な笑い声が聞こえてきた。
「もう今幸せなのに、何を言ってるんですか。」
多くを求めることはしない。だからいつか元の場所へ帰るコイツと人生の寄り道をするのは都合がいい。
「子供に同じ想いをさせたくない。なんて言う優しい人の隣に居れるんですよ?そんな幸せありません。」
ずっと、そう言い訳をしていた。
「私は何があっても、この場所を離れたくありません。」
これ以上愛さないように、何時でも手放せる様に。
「私が、あなたの隣に居るのは宿命ですよ。」
絵空事など信じるか。きっと現実を見ればコイツは恐れをなして目の前の不幸から逃げ惑うだろう。