第5章 タルトタタン【トレイ・クローバー】
「個人的にどうしても食べたくなったんだ。」
「…タルトタタンが、ですか?」
「……そう、タルトタタンが。」
まだきっと分からない。
効き目が出るのは恐らくあと30分後くらいだろう。
「俺はタルトタタンが焼きあがって、
型から外す瞬間がとっても好きなんだよ。」
あと30分。
オーブンの前で目を輝かせる子供みたいに、
焼きあがりを楽しみにしよう。
「…綺麗に外れるだろうか、
敷き詰めた林檎は焦げていないか。
美味しく甘くて出来ているか。」
そうして型をそっと開けた時、
君はどんな顔をして、
どんな言葉を俺にくれるのだろうか。
「……どうした?顔が赤いな。」
「……先輩…コレ…何か…入ってます?」
「うーん、思ったより効き目が早いな。
魔力がないと魔法薬の効き目も強くなるのか?」
「………なに、入れたんですか?」
「…大丈夫だ、害になる様なものではないよ。」
怯える彼女には申し訳ないが、
俺はもうオーブンの前で随分長い間待っていた。