第5章 タルトタタン【トレイ・クローバー】
「…ごめんなさい、私。あ、アレがいいです。」
「…アレで、良いのか?他にも沢山…。
いや、君が良いならタルトタタンにしよう。」
鮮やかなタルトの端っこに
申し訳なさそうに佇むタルトタタン。
煮詰めた林檎は確かに甘くて美味しいが、
見た目はどうしても見劣りする。
「…配置的に、綺麗なタルトをその…。」
「くくっ、そうだな。
その方が喜ぶと思ったんだけど、
君は少し好みが渋かったみたいだな。」
どうやら、俺の思惑はバレいたらしく、
彼女が肩をすぼめて謝罪をするものだから
柔らかそうな髪をポンポンと撫でた。
「……好きなんです、タルトタタン。」
「顔を見ればわかる。
それに君が俺の思惑を無視して選ぶくらいだ、
相当好きなんだろう?」
俺の言葉に_ポフン。と
音がしそうな勢いで赤くなった彼女は
嬉しそうに茶色い林檎にフォークを刺した。
「けど、珍しいですね。
いつもは無いですよね?
その…お茶会には綺麗なタルトばかりだから。」
意外と鋭い言葉に、少しギクリとしたが
俺は平然を装って目線を彼女のフォークの先に移した。
「個人的にどうしても食べたくなってね。
お茶会とは別に作ったんだが…。」
茶色い林檎の乗ったタルトが彼女の口へ入る。
実は、彼女の好物がコレだと知っていて
今日わざわざタルトタタンを用意して
ちょっとした悪戯をしたんだ。
「……美味しいだろ?特別なんだ。」
「美味しい!こんなに美味しいの初めてです!!」
「言っただろ?…コレは特別なんだ。」
彼女が呑み込んだのを確認して言葉を続ける。