第1章 色違い 【ジャミル・バイパー】
「………まぁ、嬉しいですけどね。」
「…何がだ?」
それだけだと、素直になっている理由はそれだけだと本当にそう思っていたんだ。
「好きな人の素を見れるって、凄く嬉しいもんなんですよ。」
目を細めて溶けるような声でそう言ったこの女は俺の奥底にある気楽を酷く都合よく勘違いしている。
「そんなものか、女は単純でいいな。」
その勘違いを都合よいと思っている俺は彼女の言う通り、本当にひねくれたどうしようも無い人間なんだろう。
「………そうですよ、単純なんです。」
こちらを見ずに困った様に笑う顔に腹が立った。
「………おい、こっちを向け。」
「……ちょっと今は前向いていたいです。」
「………良いから、こっちを向けっ!!」
都合よい女が言うことを聞かないからから、俺は無理矢理頬をつかみこちらを向かせた。
「…今はっ……嫌なんですよっ!!!」
「…………なんで、泣き出すんだ。」
穏やかな彼女が珍しく声を上げた。俺と顔を合わせた瞬間、急激に潤み出した瞳に息が詰まる。
「…ジャミル先輩は…っ…私の好きな人なんです。」
ポツリポツリ、小雨のような声がやたら頭に響く。
「好きな人の…っ…考えてる事なんて。単純な女は……全部、端から分かっているんですよ…っ…。」
言葉の意味がわからなかった。なんで突然そんな事を言い出したのか。何故こんなに泣いているのか。
「それでも…今だけは。って…そう思ってるんです。……それくらい、あなたならわかってる癖に。」
結局彼女は眉を下げて笑った。見たことがないほど優しい顔をして涙を流して笑っていた。