第3章 偽物王子 【ラギー・ブッチ】
「ラギー先輩、王子様みたいです!!」
やたらと強い風が吹いた気がした。
走ることで起こる向かい風では無い、頬が切れそうなほど強い強い…そんな風だった。
「王子は、何時もあんたの隣に居るでしょう。」
前を向いてそう呟いた。【レオナさんのお気に入り】そんな事を年中言われるこの問題児の隣には大抵いつもレオナさんが居る。守るように、支える様に。2人の本当の関係は知らないが、なぜだか俺にはそう見えていたんだ。
「レオナさんは確かに本物王子様ですけど、
今のラギー先輩が王子様に見えたんですよ!!」
また風が吹く。今度は頬を撫でるような包み込む様な夕焼けの草原に吹く、生暖かくて懐かしい良い香りの…そんな風だ。
「何バカ言ってんスか。…はぁ。今日はもう大丈夫でしょ。…また明日面倒くさそう。会わねぇ様にしないと。だるっ…。」
「けど、今日は逃げきれましたね!!ふふっ、なんであんな悪戯してたんです?利益ないでしょう?」
ここまで来たら大丈夫だろう、と地に降ろして向き合うと機嫌良さそうにそう言われた。
「利益…ホントっスよ。自分でもなんでこんな罰ゲーム。…いや、勝つ予定だったんス。」
ゲームに勝ったら、1週間昼食タダの予定だったのに。そんな事を思い俯いてため息を着くと、まん丸の黒目が覗き込んできた。
「……ラギー先輩、帰りましょ?」
「シシシッ、レオナさんの所に。っスか?」
どこかから突然やってきたこの女は何故かサバナ寮生で、レオナさんのお気に入り。なぜ今晩は1人で外に居たのか、何で今俺と一緒に居るのか。疑問はいくつもあれど、こいつの帰る所はレオナさんの隣。詰まるところ本物の王子様の隣なのはよく知っている。そんな事を思っていると、小さなため息が聞こえて来た。