第72章 *猛追ハンター*
『せん、せ..?』
先程とは打って変わって、弱々しく震えた声で囁かれるように紡がれる言葉にレイラを戸惑わせる
クルーウェル『お前が傷だらけでユウの背中から現れた時、一瞬呼吸が止まった。その後、酷い焦燥感が襲ってきた』
頬に触れるクルーウェルの胸元からは、ドクンドクンと鼓動が伝わってくる。少し速いその鼓動は、本当に心配して今ようやく落ち着いてきたと、彼の心を表現するものだった
クルーウェル『お前を失うかもしれないと思う事が、こんなにも苦しいとはな..』
『え、と..先生、心配させてごめんなさい。怖い思いさせて、ごめんなさい』
クルーウェル『もっと自分の影響力を自覚しろ。お前が傷つくことで俺のように苦しむやつが、この学園には沢山いる。それはみんながお前を大切に思っているからだ』
優しく髪を梳くように撫でられ、抱きしめられる力が少し強まる
『先生も?』
クルーウェル『ああ』
『そっか..嬉しい』
広い背中にそっと腕を回し、香水と混じる彼の匂いを胸いっぱいに吸い込む
すると両肩に手を置かれ、少しだけ体が離れていく。名残惜しく感じながらも再び現れたシルバーグレーの瞳を愛おしげに見つめる
クルーウェル『レイラ..』
『え..』
肩に置かれた片方の手が頬に添えられ、親指がスッと唇をなぞる。それは、ユウやレオナたちが普段キスしたい時、してほしい時にしている行為で、レイラは驚愕にパチパチと瞬きした
クルーウェル『許せ』
『せ..んっ..』
シルバーグレーの瞳がこれ以上ないくらい近づき、唇に柔らかい感触が触れた
一瞬何が起こったか理解できないでいたが、すぐに我に返ると慌ててクルーウェルの腕を掴んだ
すると小さなリップ音を残し、すぐに唇は離れていった
『また..ど、して?キスは、好きな人にしか..』
クルーウェル『..お前に宿題を出す。この騒動が片付くまでにその答えについて考えておけ。ただし、他の仔犬どもに助言を求めるのはなしだ。お前一人で考えて、騒動が片付いたら俺まで言いに来い。分かったな』
『えと..』
クルーウェル『返事は、はいだ』
『はい..』
クルーウェル『良い子だ。さあ、もう行け。ユウたちが待ってる』
『ん。先生、ありがと』