第68章 *終曲ポムフィオーレ*
ナイトレイヴンカレッジ・メインストリート
ユウが鏡越しのミッキーとの会話に夢中になっている中、レイラは隙をついてオンボロ寮から抜け出し、1人メインストリートを歩いていた
薄手のまま外に出たことによる外気の寒さも気にすることなく、ひたすら虚ろな瞳のまま冬空を見上げる
『...苦しい...痛い..悲しい..でも抑えなきゃ..抑えなきゃ..抑えないと..みんなに、また迷惑..』
呟かれた声は白い吐息となって無情にもふわりと溶けてなくなっていった。胸と頭に走る鈍い痛みに顔を歪め、今にも叫びだしたい衝動をひたすら抑えつけた
『甘えじゃない..ただの..ワガママ、なんだから..』
[ウサギちゃン..ねえウサギちゃン..]
『ノア..?』
[交代しておくれヨ..向こうにボクの大好きなものがある気がするんダ..ねぇ、早ク..]
『..また悪いことしようとしてるの?』
[さア..それはどうだろうネ]
明らかに何かを企んでいると分かっていたが、拒否する気力は生まれず、まるで諦めたようにため息を吐いて頷いた
『いいよ...なんかもう、疲れた..』
そうして自ら意識を手放し、深い海の底へ沈むような感覚に身を委ねていった
『[..は、ははは...あはははははっ!!!あはははははっ!!!]』
意識を交代したノアは突然狂ったように腹を抱えて笑いだし、そのまま足早にある場所へと向かい始めた
『[あぁ、面白い!実に滑稽で傑作だ!!何て最高で最低な物語なんだ!!人間はどこまでいっても身勝手で残酷だ!!]』
まだ込み上げる笑いを堪えつつ、ノアは闇の中を上機嫌に歩いていく
『[(これで分かっただろう?この世界は悲しみと怒り、痛み、そして裏切りに満ちているんだ。いくら愛を囁いていても、突然自分のエゴで勝手に裏切っていくんだ。
だからね、君に向けられる愛だって..全部嘘なんだよ)]』
コロシアム・特設ステージ
ノアがたどり着いた先は、もう機材や装飾が全て撤去されたコロシアムの特設ステージだった
そのステージの片隅に、小さな黒い塊が動いていることに気がつくと、口の端をニヤリと上げた