第60章 *反発アイデンティティー*
時を遡ること数分前
ユウたちがまだボールルームで話をしていたその頃、レイラは泣きながらポムフィオーレ寮の廊下を走っていた
『ぅっ...ぅぇぇぇ..』
無我夢中で走っていると、気がつけば移動用の鏡を抜けて鏡舎の中にいた
『...また..みんなに迷惑かけた...』
自己嫌悪に陥りながら外に出ると、冷たい風がふわりと身体を撫で、思わず身体がブルっと震えた
『...ユウ、心配してる、よね....わっ!!』
階段を降りて地面に足がついたその時、薄く張られていた氷で足を滑らせ、その場で前のめりに転んだ
『ったた...滑っちゃ..ぃっ..!!』
立ち上がろうとしたその時、片手と片膝に突き刺すような痛みが走った。座って確かめてみると、どちらも受け身をとった時の衝撃で擦り傷になって、うっすらと血も滲んでいた
『っ...ふっ...ぅぇぇぇぇっ..』
傷の痛みと無様に転んだ情けない自分に涙が再び溢れてくる
エペル『...はぁ...ん?あっ!だ、大丈夫!?』
『...林檎、くん..』
その場で泣き崩れていると、先にボールルームから去っていったエペルが通りかかった
エペルはレイラが座り込んでいるのに気づくと、慌てて走ってきた
エペル『どうしてここに...って、おめ怪我してるのが!?』
『ぇ..ぁ、ん..』
突然口調が変わったエペルに戸惑っていると、目の前にエペルの背中が広がる
エペル『乗れ』
『え、と..』
エペル『いいがら早ぐ乗れ!保健室連れてぐがら!』
『ぁ..お、お願い...します?』
何とか立ち上がりエペルの背におぶさると、彼はすくっと立ち上がり、レイラを軽々と背負ったまま足早に保健室へと向かっていった
ナイトレイヴンカレッジ・保健室
エペルは慣れているのか、手際よくレイラの手と膝に処置を施していく
エペル『これで良し、と』
『ありがと..林檎くん』
エペル『まだ雪も溶けてない内は気をつけて歩かないと』
『ん...』
エペル『そういえば、どうしてあんなところ歩いてたの?...レッスン、終わってなかったでしょ?』
『実は..』