第60章 *反発アイデンティティー*
ルーク『大丈夫。私にはずっと聞こえているんだ。コツコツと硬い殻を破ろうと奮闘する君たちの嘴の音がね』
期待を込めた嬉しそうに言いながら、"それに"とルークは続ける
ルーク『知っているかい?卵の中にいる雛鳥は..殻を破るために嘴の先端に硬く尖った卵歯(らんし)という、角のようなものを持っているんだ。だが雛が持つ卵歯は、成長するにつれ失われてしまう。
つまり、私が何を言いたいかと言うと..君たちにも、卵の中にいる雛鳥(今の君たち)にしかない鋭い卵歯.."パワー"がきっとある。
私は..いや、きっとヴィルも。楽しみに待っているんだよ。君たちが、分厚い殻を破ってくれるのをね』
デュース『今の僕にしかない、強さって..うぅん..』
目を閉じて考えるが、暫くしても答えは見つからず、デュースは頭を抱えて唸った
デュース『ダメだ。いくら考えても、少し足が速いくらいしか思い付かない。頭も、要領も良くない。僕のいいところなんて..』
そんなデュースを見て、ずっと黙っていたカリムがあることが気になって静かに問いかける
カリム『なあ、デュース。お前、そうやって頭で色々考えちまうから良くないんじゃないか?』
デュース『え?』
カリム『自分が馬鹿って分かってるのに、何でわざわざ脳みそ使って答えを出そうとするんだよ。
お前を見てると、利き手と逆の手で字を書いて、"オレはなんて字が下手なんだ~!"って、叫んでるように見える。
苦手って分かりきってることをして、ダメな結果を自分に突きつけて落ち込んでるっていうか。
そんなんじゃ、自分の良いとこなんか見えてこないだろ』
ルーク『ふふふ。カリムくん、君の瞳はいつでも雨上がりの空気のように澄んでいるね。その真っ直ぐさ、その無垢なる輝き。正しくそれは君の強さだ、黄金の君』
カリム『ん?オレ今、褒められてるか?サンキュー、ルーク!』
ルーク『カリムくんの言うとおりさ、デュースくん。君の強さは、きっと"頭を使うこと"ではないんだ』
グリム『確かに、デュースがうんうん考えたアイデアって、大抵ロクな結果にならねぇんだゾ。エースを投げつけてオレ様を捕まえようとして、10億マドルのシャンデリアぶっ壊すとか』
デュース『た、頼む。その話はもうやめてくれ』