第60章 *反発アイデンティティー*
エペルの絞り出すような、懇願するような言葉にも、ヴィルは冷静に目を閉じて聞いていた
エペル『俺がなりてぇのは、なよっちい男でなぐで、たげでがぐで、たげ強ぐで、たげ逞すい男だ!』
ヴィル『呆れた。思い通りにならないからって癇癪を起こして良いのは、3歳児までじゃなくって?
あんた、"愛らしい"と"強い"が別物のように話すけど、その2つはどちらも等しく"パワー"よ。それが分からないようじゃ、いつまでたってもあんたはアタシに勝てない』
エペル『うるさいっ!もういい。もうやめる。
俺は、このチームを抜ける!』
『『『ええっ!?』』』
突然のチーム脱退宣言に驚きを隠せないエースたちだったが、一方のヴィルはさして取り乱した様子もなく、まるで"いつものやつ"かと軽く息をはいた
ヴィル『...あら、そう。いいでしょう。じゃあ"いつもの"を始めましょうか』
『"いつもの"って..?』
ユウ『二人とも、喧嘩はやめましょう..!』
仲裁に入ろうと足を踏み出したユウの肩を、後ろからルークの手が伸びてグッと掴んで引き留めた
ルーク『ユウくん、大丈夫だよ。これは喧嘩ではないから』
ジャミル『どう見ても一触即発の空気ですが..』
内心ハラハラとしながら見つめるジャミルに対し、ルークはにこやかに"まあ、見ておいで"と二人の成り行きを見守るように促した
ヴィル『さあ、マジカルペンを取りなさい、エペル』
エペル『...今日こそは、絶対勝ってやる!』
デュース『..って、やっぱ喧嘩じゃないですか!?』
デュースが狼狽える中、ペンを構えたエペルは、ペンを魔導書に変えて待ち構えるヴィルへと攻撃を仕掛けた
ドガッ!!!
エペルは何度も何度も攻撃を放つが、ことごとくかわされる。一方エペルは、ヴィルの猛反撃を避ける暇もなくもろに受け、最後は身体を軽々と吹き飛ばされ、背後の壁へと叩きつけられた
エペル『ぐはっ!..げほげほっ!』
ヴィル『はい、今日もアタシの勝ち。今のあんたは可愛くも強くもない、毒も持たないただの林檎ちゃん。そんなことじゃ、いつまでたってもアタシに傷1つ付けられないわよ』
魔法が撃ち込まれた腹を押さえながら、苦しそうに息をはくエペルを、ヴィルは冷ややかな目で見下ろした