第60章 *反発アイデンティティー*
〔No side〕
数日後ーーー
ポムフィオーレ寮・ボールルーム
いつものように、ボールルームでのレッスンが行われていたある時、それは起きた
その日はバレエレッスンをしていた二人も交えてのパフォーマンス練習をしていた
エペル『"いつか林檎のような赤 朽ちてく 誰も越えられない"』
エペルの歌声がボールルームに広がっていく。それはとても愛らしい歌声だったが、それを聞いていたヴィルの表情はどんどん険しくなる
ヴィル『ああもう、ダメ、ダメ!一旦音止めて』
耐えるようにしていたが、ついに我慢できなくなったのか、声をあげてユウにプレーヤーを止めさせた
隣ではヴィルの苛立つような声に、グリムが身体を縮こませ、尻尾をクルンと内側に丸め込んだ
ルーク『どうしたんだい、ヴィル』
ヴィル『エペル!!』
エペル『は、はいっ..!』
エース『うわ出た。エペルしごき。ああも毎日だと流石に可哀想になってくるわ』
デュース『エペルはメインボーカルだし、それだけ期待をされてるってことだろうが..』
グリム『オレ様、"音止めて"って言われるたびに尻尾が後ろ足の間に入っちまうようになってきたんだゾ』
ユウ『合宿が始まってから、ヴィル先輩がああやってエペルくんに指導しなかった日って見ない気がする』
ヴィル『あんた、バレエのレッスンで何を学んだの?固定概念を捨てろとは言ったけど、ヤケクソになれとは言ってない。歌詞の意味を理解しないまま歌わないで。これは誰かに媚を売るための歌じゃないの』
エペル『でも、これが、僕のできる精一杯の"愛らしさ"で..』
ヴィル『愛らしさとぶりっ子は別物よ。そんなことであのネージュを仕留められると思ってるの?』
初めからもう一度!と檄を飛ばすヴィルに対し、エペルは拳をギュッと強く握りしめ、抑えつけていた感情が溢れ出すように身体を震わせた
エペル『~~~っ俺は、っ..俺は可愛くなんてなりたくないっ!』
ヴィル『は?』
エペル『ポムフィオーレなんかに入りたくなかったし、ボーカル&ダンスチャンピオンシップにだって出たくねぇ!俺は、こんなお遊戯するためじゃなく、強くなるためにナイトレイヴンカレッジに来たんだ!』