第58章 *創造シルキー*
ヴィル『これでいいわ。手順は今ので覚えたでしょ?』
『ん、覚えた』
ヴィル『なら毎日欠かさずやりなさい。ダンスメンバーたちは勿論だけど、あんたはこの中だと特に良い素材なんだから。磨かなきゃ損だわ』
兎に背を向けてもう一度手をよく洗う。そんな時、不意に服の裾をクイッと引っ張られた
ヴィル『...なに?』
『あの...ありが、と...』
無意識の上目遣い。おずおずと摘まんだ服の裾を引く指。呟かれた小さな声
これで落ちる男が今まで一体何人いたのかしら
でもアタシは揺らがないわ。そんなの今までの芸能生活で嫌って程見てきたもの。今更、たかがこんな一匹の兎なんかに絆されたり...しない
そう自分に言い聞かせながら、アタシはしっかりハンカチで拭いた手でまた頬の感触を確かめる
ヴィル『うん、バッチリだわ。前より少しは綺麗になったんじゃない?』
『...』
ヴィル『何か不満でもあるの?』
『私、別にキレイじゃくて、"可愛い"って思われればそれでいい』
ヴィル『何言ってるの?どちらも同じよ。"綺麗"も"可愛い"も、どちらも等しく"美"に繋がってるんだから』
『そう、なんだ..』
ヴィル『あんたは"可愛い"って言われるのがそんなに好きなの?』
『ん..キレイって言われるのも嬉しいよ。でも、"可愛い"って言われたときの方が何倍も嬉しい』
嬉しそうに語る兎だったけど、次第に表情が暗くなってきて、まるで拗ねるかのように
『CMに映ってたあの人を見て、ユウが"可愛い"って言った時..凄くやだった。エースたちが言ってもやだと思う』
CM...ネージュのことね..
頭に浮かんだあの姿に、思わず触れていない方の手でギュッと拳を握った
『ワガママだけど、みんなが可愛いって思うのは私だけがいい。だから、そう思ってもらえるように、毒の人がくれた化粧品を使おうと思ったの』
ヴィル『そんなのワガママでも何でもないわ。美しさを極める者なら当然の感情じゃない』
なによ。あんたも人間らしい感情持ってるんじゃない。何考えてるかわからない、まるで無感情そのもののような兎かと思ってた