第58章 *創造シルキー*
兎の手元の台には、アタシお手製の化粧品。そして目の前には鏡
ヴィル『ちゃんとアタシの言いつけを守ろうとしてるのね。でも、別に褒めたりしないわよ。だってこれは基本なんだもの』
『ぅ...分かってる..』
アタシの言葉に少し顔を歪めながら、兎は化粧水を手に取ろうとする。だけど、何故か気づいたらその伸ばされた手を掴んでいた
『ぇ..な、に..?』
ヴィル『!...』
何やってるのよ..どうして兎の腕なんか掴んで..
自分でも何をやっているのか理解できなかった。でも身体は勝手に次の行動を始める
ヴィル『..貸しなさい。アタシがやってあげる』
『ぁ..』
口すらもアタシの意思なんてお構い無しと言わんばかりに勝手に動く。兎の取ろうとした化粧水をとって、横にあったコットンに馴染ませる
『えっと..』
ヴィル『動かないの。じっとしてなさい..』
困惑した兎の顎を指で持ち上げ、そのままもう片方の手でコットンを手にして、兎の頬に滑らせていく
『....』
ヴィル『....』
今ここには月明かりしかないけど、近づけているからその顔がいつもよりよく分かる。見れば見るほど本当に勿体ない
決め細やかで穢れのない透き通った肌とツヤ。今までケアしてなかったとは思えないわ
化粧水が終わって、次は保湿用の化粧水。そのために1度その場の洗面台でよく手を洗った
ヴィル『保湿化粧水を塗るわ。直接触るけど動かないで』
手に化粧水を出して掌に広げると、そっと兎の両頬に添えて撫でていく
『冷た...』
ヴィル『ちょっと。動くなって言ったでしょ』
『ぁぅ..』
化粧水の冷たさに身をよじる兎をこれ以上動かないように、頬に添えた手に力を少しだけ込めて持ち上げる
母親が小さな子供に話を聞かせるためにするように
ヴィル『...』
ただでさえも近かった顔が、持ち上げた事によって更にその距離が縮まって、血のような兎の瞳が月明かりを反射させて艶めく
その瞳に吸い込まれそうになりながらも、アタシは平常心を装って手の動きを再開する
『良い匂い..』
ヴィル『最後は乳液。これも冷たいから我慢しなさい』