第58章 *創造シルキー*
オンボロ寮・洗面所
一方その頃、レイラは部屋から少し離れた洗面所に来ていた。夜中ということあって、電気はつけずに窓から差し込む月明かりを頼りに、鏡の前の自分の顔を見つめた
『あの人の言うとおり、これつけたら..もっと可愛くなれるかな?』
そう言って洗面所の横に置いたのは、先程ヴィルが全員に配った化粧品だった。ダンスメンバーだけでなく、マネージャーであるレイラたちにも配られていたため、レイラはそれを試すために持ってきていたのだ
『もちもちになったら、ユウたち驚くかな..?んふふ..ちょっと楽しみ』
自分の肌が変わったと分かった瞬間の彼らの反応を想像し、上機嫌になってきたレイラは、声を充分に落としながら歌を口ずさみ始める
『~~~♪』
〔ヴィル〕
出来るだけ足音をたてずに廊下を歩く。この寮ボロすぎてちょっと歩いただけでもギシギシ音がするのよね...
もう夜中だし本当はもう寝たいんだけど、アタシが仕掛けた罠に引っかかる哀れなジャガイモたちがいるかもしれない。だからこんな時間にわざわざ起きて様子を見にきた
『~~~♪』
ヴィル『...歌声?曲は..あの新曲かしら。でもジャガイモたちでもルークたちでもない。こんな歌声、聞いたことないわ。もしかして...』
『~~♪』
ヴィル『...キレイね』
今は軽めにやってるけど、もしこれを本気で歌ったら..きっと、誰もを魅了するステージを作り出せる。本人は望まないでしょうけど
ほんと、宝の持ち腐れも良いところよ
消去法と声の高さで歌声の主に1人、心当たりが浮かんだ。浮かんだのは良いけど、その子のところへ行くのは心が躊躇してしまう
でも、心とは裏腹に足はその声の方へと向かっていく
まるで引き寄せられるかのように..
『~~♪』
やっぱりあんただったのね。アタシに気がつかずに呑気に歌っちゃって
ヴィル『こんな夜中に何してるわけ?』
『っ..!!ぁ..毒の人..』
いきなり声をかけたからビクッと肩を震わせてこちらを振り向く兎。一瞬怯えたような瞳であたしを見つめるその姿に、何故だかゾクゾクと興奮が走った
ヴィル『毒の人って、どんな渾名よ。ってそれ、アタシが配った化粧品じゃない』