第58章 *創造シルキー*
急に背後から声をかけたグリムの声に、カリムは驚いて肩を震わせた
カリム『おわっ!グリムにユウにレイラ!もしかして、寮まで聞こえてたか?悪い、悪い!』
グリム『昼間くたくたになるまで練習したのに、まだやってんのかぁ?』
ユウ『努力家ですね』
『でもやりすぎはダメ』
カリム『ははっ、全然そんなんじゃねーって!こんなことしたの、今日生まれて初めてだよ。
...オレ...メインボーカルに選ばれなかったの、結構悔しくってさ』
グリム『へ?全然そんな風に見えなかったんだゾ』
カリム『オレも発表された時は何にも感じなかったけど、さっきベッドに入って目を閉じたら段々悔しくなってきて..いてもたってもいられなくて、練習しに来たんだ..オレ、こんな気持ちになったの、初めてでさ』
口元に笑みを浮かべているが、その瞳はまるで初めての感情に戸惑いを隠せないかのように震えていた
グリム『はは~ん。さてはオメー、今まで手に入らねぇもんなんか何にもなかったんだろ!すげー大富豪だもんな。羨ましいやつなんだゾ~』
カリム『あ~、う~ん。そうなんだけど、そうじゃないっていうか..ちょっと違うんだよなあ』
『??どういうこと?』
カリム『オレ、"自分が選ばれて当然だ"なんて考えたことさえ、一度もなかった。ってことは、それが一度も頭をよぎらないくらい、ジャミルがオレに席を譲ってくれてたってことなんだよな..きっと』
悔しいよ..とそっと目を伏せ、絞り出されるように呟かれた声が白い吐息となって夜空に溶けていく。いつもの明るく太陽のように弾ける彼はそこにはおらず、月のような静寂を纏っていた
カリム『..スゲー悔しい』
『カリムさん..』
グリム『そんなこと言ったら、オーディションに落ちたオレ様の方がよっぽど悔しいんだゾ』
カリム『あっ、それもそうか。悪い、嫌みを言うつもりじゃなかったんだ!いやぁ、オレ、こういうところだよな~。ほんとスマン!』
申し訳なさそうに両手を合わせて謝ると、余りの素直さに、逆にグリムの調子が悪くなってしまった
グリム『ゴホンっ!そう思うなら絶対にVDCで優勝するんだゾ』