第56章 *抜擢アロー*
ヴィル『あら、新ジャガについてきた兎じゃない』
『ぁ...』
グリム『ふなっ!?』
あともう少しでボールルームに到着、というところでちょうど廊下を歩いていたヴィルたちと鉢合わせした
ルーク『ボーテ!!レッスンで疲れた彼らへ健気に差し入れとは。献身的な"愛"だね、兎の君(ロア・ドゥ・ラパン)』
『ぅ"..』
すっかりルークに対して苦手意識を持ってしまったレイラだったが、今は隠れる相手がおらず身を縮こませることしかできなかった
ヴィル『ちょっとルーク。"ロア"は"王"でしょ?この子はそんなんじゃないわ』
ルーク『ノンノン。彼女はムシュー・ハートや黄金の君(ロア・ドゥール)たちだけでなく、他の"王(ロア)"たちの心をも奪って虜にしている。王の素質は充分さ』
ヴィル『そんな大層なものには見えないわ...あんた、オーディション受けなかったのね』
『..ん...』
ヴィル『アタシにボロ負けしたくせに、見返してやろうとか思わなかったの?てっきり新ジャガたちと挑んでくるかと思ったのに』
『...私は、ステージに立つの、怖いから。だからオーディションも受けなかった。それ、だけ...』
ヴィル『..呆れた。ビクビクしてみっともなくて、ここまで何の度胸もない臆病な兎だったなんて。新ジャガたちを馬鹿にされて許せない、なんて言ってた割には随分な弱虫なのね』
明らかに小馬鹿にしたような笑みで見下ろすと、レイラの足元にいたグリムが毛を逆立てて下から睨み付ける
グリム『おい、オメー!黙って聞いてりゃ、レイラのこと好き放題言いやがって。腹が立つんだゾ!あのなぁ、こいつだって本当は..』
『グリム、言わないで良いよ』
グリム『でもこいつ、』
『...』
そっと首を横に振ると、グリムは不本意ながら"うぐぅ.."と言って口を閉じた
『そうだよ。私は度胸もなくて弱虫だから、オーディションを受けなかった』