第107章 *到着スカーレット(リドルの夢)*
張りつめた糸のような緊張状態の中、キッチンから返ってきたのは意外すぎる言葉だった
リドル母『あら、本当?素敵だわ。リドルちゃん、パティスリー・クローバーのイチゴタルトが大好きだものね』
『あ、れ..?』
トレイ『リ..リドルにうちの店で作ったタルトを食べさせていいんですか?』
リドル母『ええ。誕生日には毎年1番大きいのを予約するけど、ほとんど1人でペロリと食べちゃうんだから..』
リドル『だって、誕生日はいくらタルトを食べたっていい日だもの』
リドル母『ふふふ..誕生日じゃなくても、週に2回はおやつにタルトを1ピース食べているじゃない。リドルちゃんは、本当にタルトが大好きよね』
トレイ『..いっ..移動中に揺らしてしまったから、少し形が崩れてるかもしれないけど』
リドル『どうせ口の中でぐちゃぐちゃになるんだ。気にすることないよ。ママに切り分けてもらおう。キッチンに置いてくるから、キミたちはテキトーにくつろいでいて』
好物が手に入ったことがよほど嬉しいのか、軽い鼻歌を歌いながら箱を持ってキッチンへと駆けていく。その後ろ姿を見送ると、少しの沈黙がリビングを包み込んだ
『(よかった..怒られなかった。これでトレイさんも安心して...)え?』
トレイ『...っ..は...』
『トレイ、さん...?』
トレイ『は..はぁ...っ..』
『!!』
落ち着かない乱れた浅い呼吸を繰り返し、目は見開かれ唇は震え、過剰すぎる緊張が全身をまるで鉛のように固く重く地に押し付ける
襲いくる恐怖に震える彼の姿にレイラは見覚えがあった。それは過去のトラウマに縛られ、大きな声や争いの声に反応して蘇る記憶に怯える自分と全く同じだった
『(私と、一緒)..っ!トレイさん、息して!』
トレイ『!!...ぶはぁっ!!』
腕を掴まれ強く揺さぶられると、ようやく我に返りほぼ止まりかけていた呼吸が活動を再開する
途端に酸素が頭から全身に回り始め、少し目の前がくらりと傾きすぐ側にあった机の上に手をついた。緊張から解放されたその顔には冷や汗が今になって流れ落ちる