第16章 *百獣コンフリクト*
ユウ『...僕らが名乗ったんですから、そっちも名乗るのが礼儀では?』
先程よりも警戒心を高めながら、ユウは下から青年を睨むように言い放った
?『僕に名を名乗れ、と?ふっ...聞かない方がお前達のためだ。知ってしまえば、肌に霜が降りる心地がするだろう。世間知らずに免じて、好きな名前で呼ぶことを許す。いずれそれが後悔に変わるかもしれないが...』
宝石の目を細めながら、ニヤッと含みのある笑みを浮かべる。僅かに開いた口からは小さな牙が覗き、彼が只者ではないことが容易に感じ取れた
ユウ『(ちょっと変わった人だな)』
?『ふう...それにしても...人が住み着いてしまったということは、もうこの廃墟は廃墟ではない。残念だ』
『貴方のお気に入り?』
?『まぁ、散歩用の廃墟というところだ。ん?...あぁ、この匂いはお前か』
冷たい風に乗ってレイラの匂いが青年の鼻を掠め、その匂いに反応した青年は興味深そうに目を向けた
『ごめん...』
?『いや、謝ることではない。だが、そうか...まだ少し薄いな。この頃ならかなりの匂いを発しているはずだが...』
『私...ずっと家にいたから...多分、心の成長が遅いんだと思う』
?『ふむ...今になってようやく他者との関わりが広がった為にまだ薄い...と』
『ん』
?『レイラ、こっちに来い』
軽く手招きをする青年に、戸惑いながらもレイラはユウの方を見つめる。躊躇いながらも小さく頷くいたのを確認すると、真っ直ぐ青年の方へと歩いていった
先程よりも近い距離に美しい宝石の瞳が輝き、思わず鼓動が高鳴り見惚れてしまう
『やっぱりキレイ...』
?『そうか?』
自身の瞳をうっとりと見つめるレイラにフッと笑みを浮かべ、その頬へと手を滑らせ首筋へと顔を近づけた
ユウは思わず飛び出していきそうだったが、レイラ本人が嫌がる素振りを見せないということと、持ち前の理性で自分を何とか抑えた
青年は軽く匂いを嗅ぐと、高揚感を全身に感じつつも1つの闇の気配に顔をしかめた
?『昂らせる匂いだ...だが同時にお前の中に潜む闇の気配を感じる』
『...それは』
?『いや、何なのかは分かっている。だがその力は危うい...充分に気をつけろ』