第101章 *奮起シーフ(ラギーの夢)*
アズール『ふぅ..なんとか追い払えたようですね』
オルト『闇が襲ってきたということは、この座標にバグが発生していることが自律魔法で感知されている可能性がある。マレウスさんがお出ましになる前に、ラギーさんを早く目醒めさせなくちゃ』
ジャック『..ラギー先輩、出ていった親父さんが帰ってきたって言ってたよな。町の人にも愛されて、毎日腹いっぱい食べられて..俺たち、そんな夢を全部ぶっ壊さないといけねぇのか。そうするのが正しいって分かってる。でも..なんか、やるせねぇっつーか..』
『ジャック...』
根が真面目で優しいせいか、目の前で体験してしまったラギーの"夢"を否定し、壊さなくてはいけない使命が複雑な感情となり胸の奥をツンと痛め、紛らわすように髪の毛をガシガシとかいた
アズール『ええ。確かにラギーさん自身、ずっとこの夢の中にいた方が幸せかもしれません..』
シルバー『待ってくれ、それは..!』
『でも..このまま夢の中にいても、ラギさんは本当の意味で幸せになれないよ』
アズール『ええ。夢の中でどれほど満腹になろうが、現実で得られるカロリーは0。それはそれで魅力的ではありますが..現実のラギーさん自身は何も得ていないわけです。
それだけじゃない。戻ってきたというお父様も、現実では行方知れずのままだ』
ユウ『なるほど。それを踏まえてこれまでの言動から考えると、先輩の身内はおばあさんだけってことか』
『そう、なんだ....でも、そしたらラギさんのおばあちゃんは、』
アズール『ええ。現実の彼のお祖母様は今も1人、ラギーさんの身を案じていることでしょう。自分だけが満腹で、幸せで..果たして、彼はそれを望むでしょうか?』
ジャック『それは..』
ふとジャックの脳裏に、ホリデー直前に大量の食材を抱えて闇の鏡に飛び込んでいったラギーが蘇る
消費期限ギリギリの食材をタダ同然で買い取り、身内である祖母だけではなく、近所の飢える子供たちにも食べさせるという、家族思いであり周りの似た境遇の同族たちのことも思う優しい彼が、自分だけ幸せな夢に浸るようなことは決して望まないことを、誰よりも付き合いのあるジャックは知っていた
ジャック『ラギー先輩は..そんなこと望まない。絶対に』