第91章 *内密コール*
?『そ。じゃあ、頑張って』
無情にも黒兎の青年は背を向け立ち去ろうと歩き出した。普段なら相手が去れば追いかけることはしないが、今のリリアには目の前の背中以外に頼れるものはいないと思い込むほど追い詰められていた
その背中にさえ去られてしまう。そう思った瞬間、気がつけば後ろを追いかけその腕を掴んで引き止めていた
リリア『っ、待て!待ってくれ!!』
?『おっとっと..危ない。なにか用?妖精くん』
リリア『黒兎なら知ってねぇか?
..ドラゴンの卵を孵す方法を』
?『ドラゴン..愛情と魔力がいるみたいな話は聞いたことある。オマエ、卵育ててる?』
リリア『...』
?『死にそうな顔。少し気になる..詳しく話聞かせてほしい』
リリア『..他言無用を約束してくれ』
?『..茨の谷、王子の卵、愛情と魔力..』
一通り話を聞いた黒兎の青年は、暫し考えるような仕草を取り、ポツポツと聞いた単語を並べていく
リリア『何だっていい、少しでも何か知ってることはねぇか?頼む。知識や知恵を授けると言われる黒兎!どうか俺に..教えてくれ』
答えを急かすように詰め寄られ、青年はその勢いに少し仰け反り半歩下がると、落ち着かせるようにリリアの肩に手を置いた
?『待って待って、焦らない。ドラゴンの卵を孵す方法については、正直知らない。でも、オマエの話聞いてると...きっとその王子は』
リリア『ーーーは?』
?『じゃあオレは行く。無事に王子が生まれるの、楽しみにしてる』
リリア『っおい!さっきのは何だ。もっと他に具体的な解決方法とかねぇのか!?』
?『....』
リリア『時間がねぇんだよ。あいつには..』
一陣の風が二人の間を吹き抜ける。段々と小さくなる声に、青年は背を向けたまま静かに目を閉じると、はぁ、と一息洩らすと顔だけ振り返った
リリアを映す深紅の瞳は、項垂れる彼を案じるように、試すようにその色を深くする