第91章 *内密コール*
その言葉に目を見開くと、すぐに複雑そうな笑みで自身の髪をグシャッと掴んだ。"表向きは"という言葉の裏に、玉座に座る女王の影があったからだ
そう思った瞬間、リリアの奥底から自棄にも似た笑いが込み上げてくる
リリア『..は、はは!あははははは!あのお方も無茶を言いやがる。俺に何の得があるってんだ』
バウル『ありません。何も。ただ..
覚えていますか?マレノア様に最後の謁見をした時のことを』
リリア『最後の謁見..』
ーーーー10年前のあの日
ヘンリク率いる銀の梟に城を囲まれ、逃げるよう進言したリリアの言葉にその首を横に振り、マレウスの眠る卵を預けたマレノアが言った言葉
"その時は、お前が孵せ"
"愛する私たちの血を引く子を、お前が愛さぬわけがない"
その遺言のような言葉は、止まっていたリリアの心と足を動かすには十分だった
それが、かつて自分が愛した女性ならばなおのこと
リリア『"その時は、お前が孵せ"
はぁーー..
本当に..どいつもこいつも、俺に面倒ばっかりかけやがる』
バウル『ヴァンルージュ殿、では..!』
リリア『ちょうどどこか遠くへ旅に出たいと思ってたところだ。旅先でついでに話を聞いてくるくらいのことはしてやってもいい。
いいか、"ついで"だぞ。過度な期待はするんじゃねぇ』
バウル『もちろんです。ヴァンルージュ殿がご不在の間、我々もお世継ぎ誕生に向け全力を尽くします。
旅のご無事を..夜の祝福あれ』
リリア『まずは他の大陸にいる竜の住処を探して、尋ねてみるとするか..』
ふと背中から感じる気配に顔だけ振り向くと、未だに生まれないマレウスを見上げる
リリア『..もしお前が孵化する前に星に還れば、いずれ俺が星に還った時、お前の両親にどやされる。
だから絶対にくたばるんじゃねえぞ..マレウス』
その声に反応するように、卵の奥がほんのりと光を放ち、まるで言葉を紡ぐように点滅をしていた