第91章 *内密コール*
『ほんとだ』
半透明になった体に少し驚いていると、後方から聞き慣れた声が2つして振り返る
シルバー『!あれは..』
『リィさん、ワニさん..』
そこには、あの日と変わらない姿のリリアとバウルが互いに向き合いながら話していた
バウル『ヴァンルージュ殿。急にお呼び立てして申し訳ありません..来ていただけてほっといたしました』
リリア『10年ぶりだな、バウル』
バウル『年始の葉書にも返事がないので心配していたのですが..お元気そうで何よりです』
リリア『白々しい。今回お前がよこした手紙..使われていた便箋に刻まれた紋は、ドラコニア一族のものだ。つまり、俺を呼び出したのは女王陛下の命令だろ。
..一体、何の用だ?俺に王都の門をくぐらせたと知れば、元老院や貴族どもはいい顔をしないだろう。マレフィシア様も、あの連中の意見は無視できないはずだが..』
バウル『ええ。ですから私が密使役を。それにしても..さすがはヴァンルージュ殿。その気配の消し方は現役時代となんら遜色ありませんな』
かの日と変わらない姿に少し笑みを浮かべると、バウルはリリアを連れて王城への道を登り始めた
シルバー『..あの戦いが終わってから、10年後の夢の中にいるようだ』
グリム『こっそり後をついて行ってみるんだゾ』
黒鱗城・揺籃の塔
バウルが連れてきたのは、王城から少し離れた霧に囲まれた森の中にそびえ立つガラス張りの塔だった
よく見ると、その塔の中に大切に隔離されている黒い粒のようなものが浮かび上がっていて、それはあの日に取り上げられたマレウスが眠る卵だった
リリア『ここは..揺籃の塔?』
バウル『はい。塔の上ではお世継ぎが..マレウス様の卵が眠っております。本来この塔はやむを得ぬ事情で王族が卵を抱けぬ際に、一時的にその卵を預ける揺籠』
リリア『要は竜の孵卵器だろ。ドラゴンの卵は魔力と愛情を注がないと育たねぇからな。で..今この塔に魔力を送ってるのは、マレフィシア様だよな?
親から直接魔力と愛情を受けられない以上、通常より孵化には時間がかかるだろうと思っていた。だが、流石に10年経っても世継ぎ誕生の報を聞けないとは思わなかったぜ』