第90章 *難航トランスポート*
誰もが絶望と悲痛に苦しむその時、自分たちしかいない空間にその内の誰でもない人物の声が囲むように広がる
?『なんということだ..マレノア姫様が、星に還ってしまわれるとは..』
?『人間を前に一歩たりとも退かなかった。なんという気高さ、彼女こそ、夜の眷属の誇り』
?『安らかに眠れ、夜の愛し子よ。
ーー夜の祝福あれ』
グリム『なんだ、この声?耳のすぐ傍で声がするのに、誰もいねぇんだゾ』
バウル『..元老院のお出ましだ』
セベク『元老院!?肉体が星に還ってなお、思念をこの地に留めているという、あの?』
リリア『マレノアが気高い?夜の眷属の誇り?
ふざけるな!気高さも、誇りも..全部クソくらえだ!!星に還っちまったら、そんなもん何の意味もねぇだろうが..!』
マレノアの死を尊ぶような言葉に、リリアは顔を上げると姿の見えない元老院に牙を向くように怒鳴りつける。しかし、その言葉に対して返ってきたのは、冷たく非情なものだった
元老院『卑しい口を閉じろ、薄汚い蝙蝠め。姫を戦場に残し、おめおめと逃げ帰ってきたのか..!』
元老院『姫をお守りできず、何が近衛兵だ。敵前逃亡とは..恥を知れ!』
元老院『ああ、姫様..妖精の誇りを解さない愚かな部下を持って、なんとお可哀想だこと..』
元老院『わらわは何度も忠告しました。泥のついた蝙蝠など、高尚なる竜のお側にふさわしくない』
元老院『ドラコニア一族への恩を仇で返しおって..この役立たずが!』
バウル『お待ちください!右大将殿はマレノア姫様の勅命で、お世継ぎを守るために..!』
リリア『..よせ、バウル。ご老公がたの言うとおりだ。
今日もって私は..王宮近衛隊を退役いたします。右大将のお役目、返上させていただく。部下たちは私の命令に従っただけ。ご寛大な処分を、平に..平に伏して申し上げる』
元老院『役目の返上などでは生ぬるい!二度とこの都に踏み入るでないぞ!』
元老院『早くお世継ぎの卵からその汚濁にまみれた手を離しなさい!けがらわしい!』