第90章 *難航トランスポート*
バウル『!!』
もう一度強くセベクを抱きしめると、すくっと立ち上がり、今度は隣に立っていたバウルにその身を寄せた
セベク『なっ!!こ、こら!おじ..バウル様にまで抱きつくな!失礼だぞ!』
セベクの声にも動じずレイラはその広い背中に手を回し、思いっきり抱きついた。頬に伝わる鼓動と温もり、魔力の匂いに心からの安堵に包まれる
一方抱きつかれた当の本人は一瞬何が起きたのか分からず、背後に宇宙を背負って呆然としていたが、次第に羞恥心や焦りが込み上げてきた
バウル『は、離せ馬鹿者!!いきなり何をするのだ!!』
リリア『はっ、いいじゃねぇかバウル。こんな美人に抱きつかれるなんて、人生でそうそうねぇぞ?』
バウル『右大将殿!!』
ニヤニヤと愉快そうに笑われ、声が若干裏返りながら抗議しながら肩を掴み引き離そうとする
しかし胸元ですすり泣く声が小さく聞こえると、セベク同様怒るに怒れなくなり、大きくため息をついた
バウル『はぁ..分かったから、もう泣くのはやめろ』
ぎこちない手つきで頭を撫でると、小さく頷き顔を上げたことで、目元が少し赤くなった潤む深紅の瞳と目が合い、胸の奥が僅かにキュッと甘く締まった
バウル『(これが黒兎の魅了の力..)もういいだろう。早く離れんか』
『ん、ごめん』
戦いの疲れは残るもののようやく全員が集まり、ようやく一呼吸おける..そう思った瞬間、今までよりも大きく地が揺れ動いた
『『『!!!!』』』
シルバー『!?地震!?かなり大きいぞ!』
同時に激しい雷鳴が轟き、豪雨が吹き荒れる強風とともに体を打ち付ける
セベク『天候がさらに荒れて..うぐっ!目を開けていられない!』
リリア『ドラゴンの..マレノアの怒りに大地が共鳴しているんだ』
バウル『なんだあれは!?翠が原が黒い雲と茨で覆われていく』
その言葉に振り返ると、野ばら城のある遠くの景色から淀んだ魔力のモヤと茨のツタが平原を包み込むように広がり始めていた