第90章 *難航トランスポート*
豪雨と雷鳴が降りしきる中、戦いは激しく混戦していった。しかし、魔の山の加護のおかげか、それとも離れていた戦力が合わさったおかげか、数的不利にも関わらず、風向きは完全にリリアたちに向いていた
そんな状況を悔しげに見つめながら、隊を指揮していた一人の鉄の者が意を決して退却の号令を上げた
鉄の者『総員、退却..っ、退却だぁーー!』
一斉にバタバタと砂埃を舞い上げ森の奥へと逃げ帰っていく鉄の者たちを、リリアたちは乱れる呼吸を整えながらその背中を見つめていた
『『『はぁ、はぁ、はぁ..』』』
セベク『お..追い払えた、のか?』
リリア『なんとかな』
シルバー『よ、よかった..』
バウル『魔の山の加護と、夜の祝福に感謝しよう』
セベク『はい、そうです..ぐぇっ!!』
突然真正面から勢いよく抱きつかれ、カエルが潰れたような声を上げながらそのまま尻餅をつく。なんだと思い視線を下げると、自身の腹にすがりつく黒くふわりとした髪が目についた
セベク『貴様っ..何をする!!』
『..かった』
セベク『え?』
『よ、かった。無事に、会えて..ほんとに、よか、った..ぅぅっ、ぐすっ..』
嗚咽混じりに再会を喜ぶ声に、先程までの痛みからの怒りがジワジワと消えていく。目の前の小さな兎が、自分の身を案じてくれていたことに、どこか胸の奥を甘く撫でられたような心地がして、少しだけその表情が緩みを見せた
セベク『..必ず追いつくと言っただろう。僕を見くびるな、馬鹿者..』
少し乱れた黒髪を撫でると、僅かに離れていたとはいえ久しぶりに触れる柔らかな感触に、先程までの戦いで荒ぶっていた心が静まっていく
『それでも..また会えて嬉しい。
ワニさんも、無事でほんとに良かった』