第90章 *難航トランスポート*
その後、近衛兵たちの援護もあり順調に黒鱗城への道のりを進んでいく一同。魔獣や魔法が使える鉄の者たちの仲間との戦闘を乗り越えながら歩みを続けていると、魔の山が近くなってきたのか、道のりが次第に険しくなり、体力の減る速度が一気に上がり始めていた
ユウ『ふぅ..』
『ユウ、ツラそう。ツノ太郎、私が持つよ』
ユウ『ごめん。情けないけど、持ってくれると助かるよ』
『情けなくない。今まで頑張って持っててえらい』
ユウから卵を受け取ると、しっかりと腕に閉じ込める。腕にかかる重みと僅かな胎動に、しっかり守らなくてはと表情をしめる
『(良い子、良い子..私が、絶対に守るから)』
グリム『レイラ、ツノ太郎の卵を落とすんじゃねーんだゾ』
『大丈夫、絶対落とさない。ちょっと重いけど』
シルバー『大丈夫か?追手の姿も見えないし、少しの間なら、卵は俺が預かるぞ』
『ううん。シルバーさんはリィさんをおんぶしてるでしょ。それに、なんか思ったよりも持ってられそう』
グリム『リリアを背負いながら、卵までって..おめーの体力は無限か?』
シルバー『もちろん疲れは感じている。ただ..不思議と力が湧いてくるんだ。"あの日"を思い出すからかもしれない』
『あの日って?』
シルバー『父と俺に、血の繋がりがないと知った日のことだ。俺は衝動的に家を飛び出してしまった。ちょうど今のような土砂ぶりの夜で..飛び出したはいいが夜の森は暗く、天気は荒れる一方。前にも進めず、家にも帰れず、俺は途方に暮れて泣いていた。でも..
父は俺を探し出し、泣きじゃくる俺をおぶって帰ってくれた。だから..不謹慎だが、今は少しだけ嬉しさを感じているのかもしれない。こうして、この人を背負って歩けることに』
かつて自分を背負ってくれた愛する家族を、今は自分が背負って歩けることに笑みを浮かべながら、自身の背で眠るリリアをそっと抱え直す
シルバー『今度は俺が、親父殿を連れて帰ってみせる』