第90章 *難航トランスポート*
バシャバシャと雨を吸いぬかるんだ地面を蹴る音が響く。激しさを増す雨に視界を、不安定な地に体力を奪われながら必死に山を駆ける
グリム『ふなぁ〜!どんどん雨が強くなってきたんだゾ!』
セベク『道がぬかるんできた。日も落ちているし..お前たちもっと急げ!足跡を見失ってしまう!』
グリム『無茶言うんじゃねぇ!オレ様、これ以上は早く走れねぇんだゾ!』
『っ、はぁ、はぁ..っ』
ユウ『レイラ、大丈夫!?ほら、手出して』
『ん、ありがと..』
ぬかるむ道と打ち付ける雨に足取りが重く、呼吸が荒くなっていくが、触れたユウの手が力強く引いて支えてくれる
そんな二人の様子に、戦闘を走るセベクは僅かに速度を落とした
グリム『セベク、さっきシルバーを探してた時の魔法は使えねーのか?あれ、ズバババーッ!て光りながらすげぇスピードで移動してたんだゾ』
セベク『迅雷一閃(リビング・ボルト)のことか?』
シルバー『あの魔法は俺も初めて見た。ユニーク魔法、いつの間に習得したんだ?』
セベク『貴様が学園に入学し、茨の谷で1人で特訓していた頃..
若様の有事の際に、誰より早く駆けつけるべく努力を続ける中で、きっかけを掴んだ。だが..まだ"習得"というには程遠い。あれは自分の体を雷に変換し、移動や攻撃を行う魔法だ。しかし..まだ練度が低いせいで、1度使うと暫く体にダメージが残ってしまう。
さっきは相手が寝ぼけたシルバーだったから良かったものの、もし敵であればダメージが回復するまで待ってはくれない。今あの魔法を使ってリリア様たちに追いついたところで、その場でお荷物になってしまうだろう』
完璧に習得するまで使わずにいようとしたのに、シルバーを起こすために使うとは、と悔しそうに、そして悩ましげに顔をしかめる
そんな彼に申し訳なさそうに謝りながらも、お前らしいユニーク魔法だと褒めるシルバーに、セベクは"ふん"と鼻を鳴らした
セベク『..夢の中なのだから、大成功したっていいだろうに..まったく』
『(今のセベク、ちょっと可愛い)』