第89章 *暗闇アストレイ*
シルバー『ここ..は?』
『野ばら城..?』
リリア『ここに来るのは..もう300いや400年ぶりくらいになるか。ようやく周辺諸国との平和条約が調印にいたり、翠ヶ原に再び訪れることができた.. ここまで来るのに、ずいぶん長い時間がかかってしまった、本当に』
『『!!??』』
背後からの声に振り向くと、そこには先程まで共にいたリリアが、右大将の時代と比べて幾分か棘が丸くなった笑みで茨のツタで覆われた野ばら城を悲しげに見つめていた
『えと、リィ、さ..』
こちらへ向かってくるリリアへ声をかけるが、声が届いていないのか二人の横を通り過ぎ、野ばら城へ進んでいってしまった
『見えて、ないの?』
シルバー『親父殿..』
慌てて後を追いかけ後ろをついて歩く。リリアはまた独り言を呟きながら廃れた城の階段を上がっていく
リリア『野ばら城は、足を踏み入れれば呪われる廃城と噂されているというが..微かに昼の妖精の魔法の残滓を感じる。人が寄り付かないよう、魔法を施したか』
シルバー『どうやら、本当に俺達のことは見えていないようだ。これはもしかして..親父殿の心の中にある風景の一部、か..?』
『ん..そうかも..』
?『オギャー..オギャー..』
リリア『これは..赤ん坊の鳴き声?玉座の間の方からじゃ。行ってみるか』
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野ばら城・玉座の間
あれからかなり激しい戦いがあったのか壁や床には争いでついた傷がはっきりと残り、どの場所にもあの日リリアたちを地下水路へと追いやった茨のツタが張り巡らされていた
おぞましい光景であると同時に窓から差す月の光でどこか幻想的にも見えた
ツタを避けながら泣き声のする奥へと進んでいくとその声は一層強くなり、まるでリリアを呼んでいるように聞こえる
やがて奥の揺り籠に1人の赤ん坊がいるのを見つけると、リリアはすぐに駆け寄り中を覗き込んだ