第89章 *暗闇アストレイ*
闇の中
『ん..ここ、は?』
目を覚ますと周りは何もなくただ真っ暗な空間が続いているだけだった。体を起こし、辺りを見回しても永遠に続くような闇の世界が広がるだけで、あまりにも"何もない"というこの空間にゾッと寒気がする
『そうだ、シルバーさんが闇に..それを追いかけて入っちゃったんだ。シルバーさんは、どこ?』
必死に目を凝らし探すと、遠くの方でゆらりと動く人影を見つけ、走り寄ってみると段々とあの星々のような銀の髪が見え始める
『シルバーさん!!』
シルバー『親父殿、あなたは知っていたんですか?この指輪の持ち主が、夜明けの騎士だったことを..』
『シルバーさん..』
独り言のように呟かれた声は悲しみに暮れ震えていた。いつもより小さく見える背中にそっと手で触れると、肩を震わせ振り返った彼の表情は弱々しいものだった
シルバー『レイラ..何故..?』
『シルバーさん助けようとしたら一緒に呑まれちゃった』
シルバー『そうか..』
『..あの金色の人、シルバーさんの..』
シルバー『夜明けの騎士は茨の国の、親父殿の敵で..マレウス様のご両親の仇で..俺は、俺は、その敵の..!』
『(やっぱり、あの人の..)』
確信と同時に言いようもないほどの悲しみがこみ上げる。自分が大切な家族を苦しませ、悲しませた相手の身内だと知ったら..
目の前で泣きじゃくるシルバーの痛みを完全に理解できるわけではないが、激しく痛む胸が彼の悲しみを表しているようだった
『っ...(何も言えない..言ってあげられない)』
?『...ーーーん、あーーーん..』
『(赤ちゃんの、泣き声..?)』
シルバー『..誰かが..泣いている?この声は..?』
遠くから聞こえてくるはずのない赤ん坊の泣き声に耳をそばだてると、目の前がオーロラの輝きに包まれ、気がつくと真っ暗闇から夜の野ばら城へと変わっていた