第87章 *懐刀インパクト*
バウル『しかしっ!』
リリア『こんなところで油を売ってる暇はねぇ。それに..なんだか嫌な予感がする。こんな砦の近くで大騒ぎしたのに、夜明けの騎士が顔を見せやがらねぇ』
バウル『!!確かに..』
リリア『さっさと書状を届けて野ばら城に戻るぞ。レイラも、もういいな?』
『ん..いいよ』
バウル『ちっ..お心の広い右大将殿と黒兎に感謝し、猛省するがいい、人間!!』
行商人『ははーーーっ!!』
バウルの圧におされ行商人はその場で土下座し、売り物を乗せた荷車を持っていかれるのを、ただ呆然と見送った
街を通過するため住人たちの群がる中を通っていくと、住人たちは行く手を阻むことなく逃げるように道を開け、特にレイラを恐れる目で見つめていた
ユウ『レイラ..』
『...』
リリア『おい、良かったのか?今回のことで、この街におけるお前を含む黒兎の評価はガタ落ちだ。前に黒兎は嫌われているとかなんとかって話をしてただろ』
セベク『もしこの事が他の国に広がれば、黒兎は恐ろしい存在だという話を更に助長させることになる』
シルバー『そんなことになれば..』
全員の視線がレイラに集中する。その瞳は未だに俯いて歩く小さな体を労り、心配するものだった
『..いい』
ユウ『レイラ、無理しないで』
『ううん、いいの。リィさんたちを悪く言ったのも、化け物って言ったことも許せなかったから。それに、もう戻せないから..』
僅かに震える肩が元から小さく華奢なレイラを、更に弱々しく見せた
リリア『..ま、お前が決めたんなら何も言わねぇが..何かあっても俺達(妖精)のせいにすんじゃねぇぞ』
『しないよ』
へにゃりとした作り笑いに眉間に皺が寄る。明らかに無理をしていると気づいていたが、これ以上は必要ないと判断し、背を向けて歩き出した
バウル『右大将殿..』
リリア『もし、あいつに危害を加えるような人間がいたらすぐに報告しろ。こいつで黙らせてやる』
ギラリと光る魔石器を撫でる。燃える瞳が住人たちを牽制するように光り、小柄な体躯からは誰よりもおぞましい覇気がにじみ出ていた
バウル『っ..(なんと恐ろしい覇気だ..)』
はっ!』