第87章 *懐刀インパクト*
セベク『レイラっ..』
『もう言わなくていいから』
セベク『頼む、聞いてくれ』
以前、闇を退けたときの事にも似たようなことを言われたのを思い出し、必死に繋ぎ止めようとする
しかしレイラはもう一度"いい"と畳み掛けると、ゆっくりと体ごと振り返る。岩に乗っているため、少しだけ見上げる形で目にした深紅の瞳は、複雑な感情が混ざりあっていた
『..雷さんが言ったこと、別に間違ってない。私が一番分かってるの。ずっと、ずっと前から分かってることだから..』
伏せられた睫毛が影を作り、言葉を紡ぐ唇がほんの僅かに震えていることに気づき、セベクは出かかった言葉を飲み込んだ
『許さないから』
セベク『え..?』
『雷さんが私に言ったこと。私ね、やなことを言われてた事もされた事も、絶対忘れないの。雷さんが言ったことは間違ってないけど、それでも言われたことは、凄くやだった。だから、忘れないし許さない』
その時、夜明けと共に登りだした太陽が、まるで後光が差しているように、レイラの背を照らし出した
『だから..少しでも悪いと思ってるなら、雷さんも自分が言ったことを絶対に忘れないで』
セベク『...っ!』
岩の上に座り太陽を背に受け、こちらを見下ろす姿はどこか神聖で威厳に溢れ、そして何よりも美しかった
そんな姿にマレウスとは違った"王の威圧"を感じ、思わずその場で膝をついてひれ伏しそうになった
セベク『わ、分かった..』
『ん..なら、もう謝らなくていいよ。私もごめん。やなこと言ったし、雷さんのことちゃんと知らないのに嫌いって言った』
セベク『ぼ、僕はあの程度の言葉で揺れるような事はない。あの程度の..こと、で..』
段々小さくなる声に、少しは気にしていたのかと苦笑いを浮かべる
『じゃあ、これでおあいこね..』
セベク『ああ..』
『おあ、いこ..だから..っ..ぅっ..ぅぅっ..』
セベク『え?』
『ぐすっ..ぅぅっ..ぅぇぇぇっ..!』