第87章 *懐刀インパクト*
『心配してくれるの?』
リリア『頭ん中お花畑かよ』
『失礼』
リリア『事実だろ。俺は心配してんじゃねぇ。着いて来られなくなったら、容赦なく見捨てるぞって意味だ』
『むぅ..もう少しこの音聞いたら戻って寝るもん..あ、そうだ』
手に持った木苺の茎から、最後の2つ目の実をもぎ取ると、リリアにそっと差し出した
リリア『あ?なんだ、それ』
『木苺。さっき、森の鳥さんからもらったの。2つあるから、リィさんにもう1個あげる』
リリア『いらねぇよ。お前が貰ったんだからお前が食えばいいだろ』
『でも折角2つあるんだから、誰かに分けたっていいでしょ?私が貰ったんだもん、私の好きにしていいよね』
リリア『お前なぁ..』
怪訝そうに睨むリリアに臆することなく、レイラは差し出す手を降ろさなかった
やがて観念したのか、頭をガシガシかいて木苺を受け取るとヒョイと口に放り込んだ
リリア『甘ぇ..』
『あむ..ん、美味しいね、リィさん』
リリア『...』
その時初めてリリアはレイラの笑顔を見た。出会ったときから基本は無か、変わったとしても怯えた顔や必死な表情のみだったのが、ここに来て間近で見た彼女の笑みは、戦いに明け暮れる戦士の心を優しく解すように一撫でしていった
『リィ、さん?』
リリア『..なんでもねぇよ。てか、ずっと思ってたがお前、その"よく聞こえる"耳のせいで、バウルやあのうるせー小僧の声に一々ビビってんのか?』
『ん..おっきな声は多分リィさんが思ってるよりおっきくって、耳と頭が痛くなるの。あと..喧嘩してるような声は..凄く怖い』
リリア『いつから?』
『昔から』
リリア『なんだ、学校でいじめられて毎日罵声でも聞いてたか?
それとも家で父親と母親が喧嘩でもしてたのか?』
『っ..!!私に、お父さんとお母さんなんていない..っ!そんなのいらない!』
リリア『!!』
決して大きくない、それでも叫びに近い悲痛な声が一瞬の静寂を呼んだ
『..お父さんとお母さんなんていない。いるのは、ママとパパだもん』
ギュッと強く拳をつくり岩の上から飛び降りると、小さな声で"おやすみ"と呟きリリアに背を向けてテントへと戻っていった