第87章 *懐刀インパクト*
『...』
ピクリとも動かない様子を感情のない深紅の瞳が見下ろす。口ではごめんねと言ったものの、今のレイラに彼らに対する情などは一欠片もなかった
近衛兵たちが教えてくれた鉄の者たちの許しがたい行い、そして先程から身に渦巻く苛立ちを合わせ、八つ当たりに良いサンドバッグとしか見ていなかったのだ
グリム『おーい、レイラ!大丈夫か?』
ユウ『怪我とかしてない!?』
事が終わったのを見計らい駆けてきたユウたちを、今度はふわりといつもの優しい色を乗せた瞳が見つめる
『ん、大丈夫』
シルバー『一部始終を見ていたが、見事な作戦だったな。彼らが暑がっていたのは..まさか風と炎の複合魔法か?』
『ん。暑いとなんかやる気でないでしょ?だからそれ使えば何もできなくなるかなぁって』
シルバー『なるほど。熱風で相手の判断と動きを制限させて、戦いを有利にさせたということか。複合魔法はシンプルに見えて、繊細な異なる魔力配分が必要とされる。魔法の扱いが上手いんだな、レイラは』
『褒めてくれる?』
シルバー『ん?ああ』
『じゃあ、ナデナデして?』
ズイッと前に乗り出し下から上目で強請るように言うと、一瞬驚いた様子で目を丸くしたシルバーだったが、すぐにその口元に笑みを浮かべて、小さな頭にそっと手のひらを乗せてゆっくりと撫でた
シルバー『よくやったな、レイラ。偉いぞ』
『んふふ..♪』
ユウ『(ギリギリギリギリ..っ)』
グリム『ユウ、すんげぇ顔になってんだゾ』
リリア『はっ。ちょっとはデキるみてぇだな』
バウル『今の手のようなものは、右大将殿と手合わせしたときに現れた、槍や雷の色と同じに見えましたが..』
リリア『あの闇色の魔法こそ、黒兎の力の証明だ。お前も前に見ただろ、あれと同じ色の魔法を使う連中を』
バウル『はい。しかし、やつらは基本自分たちが作り上げた村に引きこもっていると聞いていますが。何故あのような子供が他の人間どもと共に行動しているのか..』
リリア『さあな。なんせ今、各国はあの黒兎の力を求めて兎狩りの真っ最中だからな。あいつも捕まってたところを逃げ出したのか、あのガキ共に助け出されて一緒にいるのか。俺の知ったこっちゃねぇよ』