第86章 *救出プロセス*
優しい低音が耳を撫で、長い腕の中に閉じ込められるとモヤのかかった脳内が完全に霧がかったように染まる
『ん..ここに、いる..みんなと、ずっと一緒に』
マレウス『そうだ。僕らはずっと一緒だ。何も恐れることはない。ただ望むままに自由に生きればいい』
光が消えた深紅の瞳を揺らしながら、力なくゆるゆると背中に腕を回してマレウスの胸に顔を埋めた
その時、ぐらりと空間が一瞬歪んだのをマレウスは見逃さなかった。先程まで愛情に満ちたライムグリーンが不穏な淀みの炎を灯す
マレウス『...』
『ツノ太郎?』
マレウス『気になることがあるから少し出るぞ。ああ、心配しなくともお前を一人にしないと決めた以上は共に連れて行く。だが..記憶を変えさせてもらう』
『ぇ..ぁ、ぅ...っ』
こちらの返事を待たずに額に手が添えられると、頭の中を掻き回すような感覚が襲い、レイラは苦しげな声を上げながら感じたことのない感覚に耐えきれずに、そっと意識を手放した
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ディアソムニア寮
包むような温もりと聞き覚えのある誰かの話し声に、レイラは再び意識を取り戻して薄っすらと目を開ける
そこは先程までの家ではなく、薄明かりの灯るディアソムニア寮だった
『ん..あれ?ツノ太郎に、リィ、さ..?』
リリア『おお、ようやく目を覚ましたか。このまま激励会の間も眠ったままかとハラハラしておったぞ。まあ、その時はわしが優しく起こしてやったが』
マレウス『ふっ、お前の"優しく"はレイラには地獄かもしれないぞ』
リリア『おっと。それはどういう意味じゃ、マレウス?』
ジロリと睨まれるも、マレウスは喉を鳴らして小さく笑うだけだった。そんな二人の穏やかなやり取りを見つめながら、レイラは首を傾げて問いかける
『えと..なんで、ここに』
リリア『ん?なんじゃ寝ぼけとるのか?今日はわしやマレウスの、進級に伴う学外研修に向けての激励会じゃろ?そのために来てくれたのではないのか?』
『え、と...』
混乱する脳にまるでレイヤーが乗せられたように、別の記憶が突然流れ込んできた
"自分は今日、二人の激励会に招待されて一足早くここに来た"という記憶が