第82章 *閑話カームデイ11 〜カリム〜*
スカラビア寮・上空
大きな満月が二人を照らし、夜風が肌を心地よく撫でる。だが、カリムは難しそうな顔で腕の中のレイラを強く抱きしめていた
『カリムさん。あの..どう、したの?』
先程の騒ぎですっかり目が覚めてしまい、いつの間にか談話室から静かな夜空へと連れ出されていることにオロオロしていた
しかし、問いかけるも何も答えず、ただ自分を抱きしめるだけのカリムにどうしていいか分からず、ただ黙って身を委ねるしかできなかった
やがて小さな川のほとりが見えてくると、絨毯は静かに降下して草が僅かに伸びる川岸でとまった
カリム『...』
『...』
到着してもなお互いの沈黙は続き、密着しているにも関わらず二人の視線は合わさることはない
すると、様子を見ていた絨毯がしびれを切らしたのか、両手のフサをブンブンと回し、カリムに何かを伝える。言葉はなくともそれが"早く気持ちを伝えろ"と急かしているように見えた
絨毯『!!!』
カリム『わ、分かったから暴れるなよ』
そっと撫でて落ち着かせると、腕に抱えられたまま不安げに見上げるレイラを見下ろし、申し訳無さそうに眉を下げた
カリム『ごめんな、いきなり攫ったりして。びっくりしただろ?』
『ん..でも、どうして?お顔、ちょっと暗くなってるから、気分悪かったりする?』
どこまでも自分を心配してくれる優しさに心を打たれながらも、突飛な行動の原因がただの嫉妬心ということに、自分の情けなさを痛感した
カリム『..あー、違うんだ。なんていうか、その..』
『??』
月明かりを背に受ける俯いた顔に影が差し、伏せた瞳には焦燥が映る
そんな中で素直に気持ちを告げるのが憚られ口ごもってしまう。いつも爛漫で感情を素直にさらけ出すカリムの見慣れない様子に、やはり何か体調不良なのではないかとレイラの心配が増長していく
カリム『え〜っと、なんていうか、オレは..うおっ!?』
言い淀んでいると突然強く抱きつかれ、背中に回った手がトントンと子供をあやすように叩く。肩口に擦り寄る頭をおずおずと撫でると、腕の中から小さな声が聞こえてくる
『私、何も出来ないけど話なら聞けるよ?だから、一人で抱えないで』
カリム『レイラ..』