第77章 *第1タワー Ⅱ*
〔ルーク〕
腕の中で穏やかな寝息が聞こえてくる。ゆったりとした呼吸音、小さく上下する体、後ろにぺたんと閉じた耳
どうやら落ち着いた状態で眠りにつけたようだね
ふわりとした艷やかな髪を撫でながら顔を近づけて軽く嗅いでみるが、先程の昂ぶるような匂いはしなかった(優しい匂いがするのは変わらないが)
本によると、黒兎は特殊な香りを出して他人を惹き付け、洗脳して使役するとあった。語弊はあるだろうが、あの匂いは恐らくそれだろう
見た目の特徴から初めて出会ったときからそうではないかと思っていたが、嘆きの島に来て共に行動するようになってその可能性は高まり、そして今、確信を過ぎて真実へと変わった
なんて嬉しい発見なんだ!一度でいいから会いたいと今まで心に秘めてきた願いが遂に叶った。世界の危機というこんな状況でなければ、小躍りしながら歓喜の声を上げて彼女をもっと強く抱きしめていただろうね!
にしても、彼女(黒兎)は本の内容から連想される人物像とは余りにもかけ離れている。あんなに繊細で優しく仲間思いで美しいなんて。ああ、とても強い魔法士なのは同じだった
私の怪我をああまで気にしていてくれたり(内心とても嬉しかった)、常に自分が役に立てているか不安がっていたと思ったら、見たこともない魔法を発現したり、ユウくんたちに見せる強かさがギャップのハーモニーを奏でる
そんな彼女に関わっていると、自分の中に様々な感情が生まれて溢れ出そうになる
彼女を知りたい、もっと話したい、微笑みかけてほしい、甘えてほしい、私を見てほしい、抱きしめたい、撫でたい、キスをしたい、触れたい、触れたい、触れたい
だから怪我を気にする彼女の思いを利用する形でキスをした。触れた瞬間の柔らかな感触と迫り上がる高揚感、目の前の潤んだ瞳。これ以上ないくらい嬉しかったが、彼女にとっては好きでもない相手に、詫びの代わりにキスをさせろという最低な事をしてしまった
反省しなくては
ヴィル、君はこの戦いが終わって学園に戻ったら、彼女に伝えたい大切なことがあると言っていたね
私にも伝えたいことが出来てしまったよ。恐らく君と一緒だ
もしかしたら、私達はライバルになってしまうかもね
だがそれも悪くないだろう?