第77章 *第1タワー Ⅱ*
ヴィルの呼びかけが痛いほどの沈黙を裂いた。名を呼ばれて恐る恐る顔を上げると、真顔のまま早足で近づいてきたヴィルがそっと手を伸ばした
『っ..』
思わず目を強く閉じて身を固くすると、優しい温もりと柔らかい感触に包まれた
ヴィル『怖がらなくていいわ。あんたを傷つけたりなんてしないから』
『ヴィル、さ..』
ヴィル『さっきの戦闘のことを気にしてるんでしょ?あたしたちがあの後声もかけずに進んでいったから、余計に不安にさせたのね。ごめんなさい』
耳元で囁かれる言葉にじわじわと込み上げるものがあり、小さく体が震えだす
それに気づいたヴィルは抱きしめる力を強くすると、優しく背中をさすった
ヴィル『魔法はその形がどうであれ、それを扱う魔法士によって善にも悪にもなる。でも、あんたの使う魔法は誰かを守るためのものなんでしょ?』
『っ...ん..』
ヴィル『なら自信を持って堂々としてなさい。誰かを守るっていうあんたの意思を持って使った魔法なら、何も恥じることなんてないんだから』
諭す言葉が深く染み込んでいく。それは不安と恐怖で満たされていた心を溶かすように暖かった
ヴィル『あんたたちもさっきの魔法を見て、まさかレイラにビビったりしてないわよね?』
横目で捉えた二人の表情は、複雑かつどこか言葉を選ぶように硬くなっていた。しかしすぐに口元に笑みを浮かべながら、互いに視線を合わせて頷くと、ヴィルとレイラの元へと近づいてきた
エペル『正直言うと、少し怖かったところもあるけど、レイラチャンはあのファントムを倒すために、この世界を守るためにさっきの魔法を使った。だから、レイラチャンが怖いとかは、ないです!
..ちょっとカッコよかった、かな』
ルーク『エペルくんの言うとおりさ。むしろファントムを確実に仕留められる最適の攻撃だったと称賛したいほどさ!拘束からの相手が行動しづらい空中への投棄、そして逃げ場をなくすように四方から鋭い棘でのとどめ。何より素晴らしいのはその一連の動作の流れの良さ。相手に行動の余地を与えない滑らかな事運びに私は感動したよ!』
今まで抑えていた興奮の箍が外れたように、うっとりとしながら饒舌に語りだすルークに、いつの間にか体の震えは収まっていた