第77章 *第1タワー Ⅱ*
800番台のケージを探しながら、ふと思ったことがあったのかヴィルは徐ろに口を開いた
ヴィル『ファントムにも種類が色々あることは分かったけれど、もしあたしがファントムに成り果てたとしたら、どんな姿になるのかしら?』
縁起でもないことにエペルは"やめてくださいよ"と言うが、ヴィルは真剣な面持ちで話を続ける
ヴィル『宝石のような姿、獣のような姿。ファントムは、オーバーブロットした魔法士の欲望や、本質を具現化した姿をしている気がする。あたしがオーバーブロットした時..背後に現れた化身は、深くローブを被った老婆のような姿をしていた。
振り乱した白髪に、木の枝のように節くれ立った指..無意識に若さこそ美と考え、老いに嫌悪や恐怖を感じているのかもしれない。
だとしたら..すごく嫌だわ』
自分があの化身のように成り果てると想像して、ヴィルは少し泣きそうになりながらその想像図をかき消そうと首を振った
ルーク『我々はまだ"老い"を経験したことがない。誰しも、未知の経験には恐怖を覚えて当然さ。君だけじゃない。ファントムたちの姿から目をそらさないようにしよう。どんなに恐ろしくても』
ヴィル『ええ。自戒のためにもね』
『....』
ヴィル『なに?』
『ヴィルさんは、歳をとっても..きっと綺麗だよ』
ヴィル『..そんなこと、なってみなきゃ分からないじゃない。唯一分かってることは、今のこの姿ではいられないってことよ。それは誰でも同じことだけど』
『...』
ヴィル『あんたは..あたしがどんな姿になっても、今まで通りに接してくれる?』
『ヴィルさんの心が変わらないなら』
ヴィル『..そう』
『私がオーバブロットしたら..どうなるんだろう。
多分..ううん、絶対に
すごく可愛くない、よね』
『[そんなことはないさ。きっとこの世の何よりも強く、美しく、可愛く、素敵で...
とてつもなくおぞましいだろう]』
体の内側で悪魔が笑う。愉快に嘲笑と歓喜を織り交ぜて、そしてどこか悲しげな声が心を撫でた
そして、何かがひび割れる音が小さく鳴った