第77章 *第1タワー Ⅱ*
ヴィル『あんたって、意外と過激なのね..まあいいわ。それ以来、あたしが無反応でも、ルークはいつも勝手にやってきては、出演作の感想を好き勝手喋って帰っていった。良い感想も、悪い感想もね。
最初のうちは、ご意見番ぶって役者に上から物申したいだけのやつかと思ってたわ』
形のいい眉をひそめて、その当時を思い出してげんなりしていたが、"でも"と表情を引き締めて言葉を続けた
ヴィル『そのうちルークが述べる感想というか..指摘が妙に鋭いことに気づいたの』
"やあ!君が出演していたミュージカル映画の最新作を見たよ。ラストシーンで自らの失恋を悟ったときの表情、すごく良かった"
"やあ!今回の舞台は前回の演目よりも演技がのびのびとしていない気がするけど、どうしたんだい?"
ヴィル『こんな具合に、自分でもうまくいったと思ったところはピタリと拾ってくるし、演出家のプランに応じて芝居をしたけど、自分ではあまり納得がいかなかった部分なんかをズバリと言い当ててくることも多くて、
"君はあのラストシーンに納得いってたの?私にはとてもそうは見えなかったけど"とかね。
それでなんとなく聞いてみたのよ。"あんただったら、あのラストシーンをどう演出した?"って
そうしたら..』
『そうしたら?』
ヴィル『ルークの話が終わるのに、5時間かかった』
エペル『ご、5時間!?』
ルーク『実に有意義な時間だったよ。ヴィルの出演作についてだけでなく、お互いが見てきた作品、演出、脚本について議論を交わして、気がついたら寮の門限をとっくに過ぎていて、忍び足で寮に戻ったっけ』
ヴィル『あたしは、芸術や演劇に関しての知識は同年代の誰にも負けてないつもりでいたの。でも、ルークの知識の幅広さはあたしの比じゃなかった。実を言うと半分くらい話についていけなくて、すごく悔しい思いをしたわ』
ルーク『私はヴィルと違って、幼少期から自由に使える時間が豊富にあっただけさ』
ヴィル『それから、ルークとはよく放課後に中庭で色々な話をするようになった』
ルーク『会話が白熱しすぎて、雪が降った日には二人で風邪を引いてしまったこともあったね』
エペル『あはは!先輩たちでもそんな頃があったんですね』