第76章 *第1タワー*
エペル『それにしても、よく見たら全然グリムクンじゃなかった..』
ヴィル『まったく、軽率な行動は慎みなさいよ』
ルーク『収容所以外でファントムと遭遇する回数が増えてきた。下のフロアの収容所内で解凍が進んでいるようだね』
エペル『グリムクン、どこにいるんだろう。ファントムに襲われてないといいけど..』
ルーク『大丈夫。彼はあれでいて度胸もあるし、賢い。きっとどこかに身を隠して難を逃れているさ』
ヴィル『ツナ缶をフォークで叩いて音を出せば、すぐに飛んできそうな気はするけどね』
冗談交じりな言葉に、レイラはその手があったかと言わんばかりにハッ!とした
『お気に入りのツナ缶、寮から持ってくればよかったね』
ユウ『猫じゃないんだから..』
エペル『そういえばヴィルさんは、S.T.X.Y本部ではグリムクンと一度も会わなかったって言ってましたよね』
ヴィル『ええ。さっきあんたたちから話を聞くまで、ここに連れてこられていることすら知らなかった。
恐らく..ユウを襲ったことに関して、ブロットの影響を疑われていたんでしょう。明日の朝あたしたちと一緒に出所予定だったなら、VDC後のグリムの凶暴化とブロットの因果関係は、認められなかったのかもしれないわね』
ルーク『グリムくんは魔獣だ。どんなに人馴れしていても、獣は不意に野生に戻ることもある。制御しようとしてもできるものじゃない。生まれ持った本能だからね。
でもそれは人間も同じこと。理性というのは脆く頼りない薄氷のようなものさ』
その言葉にユウは俯き、何も言えないでいた。そんな彼に近寄ったルークはポンと肩に手を置いて優しく語りかける
ルーク『だからね、ユウくん。グリムくんが君を傷つけてしまったことは..本人、いや、本獣にとっても本意ではなかった可能性が高い』
ユウ『..もちろん、分かってます』
『グリムがユウにわざと怪我させるわけないもん』
エペル『だよね。だってユウクンは、学園の中で誰よりもグリムクンと一緒にいたんだもん。二人で一人の生徒なんだから。早く会えるといいね』
ユウ『うん、ありがとう』
小さく笑みを浮かべると、それに安心したのかエペルの表情にも笑みがこぼれた
『グリムの爪、後で切っとかないとね』