第75章 *拡大デンジャー*
レオナは一人思考を巡らせ、個室から脱出した直後の会話を思い出していた
自分たちがいた個室が並ぶ廊下の奥の部屋。そこからこの中の誰でもない嗅ぎ慣れた魔力の匂いがした
防魔素材が使われた頑丈な扉を、その者は一人で吹き飛ばし、誰にも姿を見られることなく脱出していった
レオナ『もしかして、俺達より先にドアをぶち破って脱走した被検体ってのは..あの毛玉か?』
リドル『まさか!グリムはウチのエースやデュースに比べても、魔法の腕が未熟なはずです。それなのに、ボクたちでも破るのが難しい防魔素材を使ったドアを吹き飛ばせるわけがない』
ユウ『...』
レオナの言葉を聞いて、ユウは思い出していた。グリムがいなくなったあの日の夜、自分に襲いかかってきた豹変したグリムの姿を
ユウ『グリムに一体何が起こってるんだろう』
『多分今、一人ぼっちだよ。早く見つけてあげないと』
ヴィル『スタッフさん、教えてちょうだい。あたしたちの個室の並び、一番奥の部屋には誰が?』
近くにいた職員に尋ねると、"ナイトレイブンカレッジから連行された魔獣だ"と答えた
レオナ『..やっぱりあの毛玉か』
職員『でも、魔法に関するテスト結果は、どれも並の魔法士以下。被検体Aの言うとおり、あのドアを破るほどのパワーは一度も計測されていない』
すると他の職員が"待ってください"と止め、グリムのデータを読み返し始めた
職員『被検体Fは、何度テストしてもブロット蓄積量が正確に計測できない状態だったんです』
エペル『どういうこと?』
職員『S.T.Y.X本部の保有するデータでも同様の事例がヒットせず、精密検査をしても原因の特定には至りませんでした。解析班によれば、古代魔術が何重にも重ねがけされていると。魔法効果の特定には至りませんでしたが、条件づけされた状況下でのみ発動する呪い、あるいは祝福の可能性が高いとのことでした』
『呪いと、祝福?』
ヴィル『呪いと祝福は、人間が効果によって呼び分けているだけで根本的には同じものよ。あたしのユニーク魔法だって、条件づけによっては良い効果をもたらす事もできる。
魔法は使う人間の感情ひとつで、善にも悪にもなるという話ね。なぜそんなものがグリムにかけられているのかは分からないけど』