第4章 蓋
ひまりは、ハッと閃いたように口を開けると「たこ焼き!」と提案する。
「た、たこ焼き…でいいの?」
てっきり動物園やら、水族館やら…デートの定番の場所を言われると思っていた由希は拍子抜けしたように質問で返した。
「うん!たこ焼き食べたい!最近食べてなかったなぁって思って」
「…わかった。じゃあたこ焼き食べに行こう」
あまりの無欲さに戸惑いながら由希が了承すると、ひまりが手を離して歩き出す。
由希はまだひまりの温かさが残る離された自分の手を見つめた後、彼女の横に並んで歩き始めた。
「そうだ。たこ焼き食べたら、秘密基地…行く?」
「なにそのそそられる単語。詳しく!!!」
「そんな…たいしたものじゃないけど…裏庭にあるんだ。秘密基地」
「えー!知らなかった!秘密基地…秘密基地かぁ…」
ひまりは由希から初めて聞かされた"秘密基地"に色々な想像を膨らませてワクワクしていた。
「これこれ!美味しそうーっ」
ソースの香りを湯気と共に立ち上らせながら、鰹節がユラユラと揺れる目の前のそれに、ひまりは顔を近づけて香りを楽しむと幸せそうに目を閉じた。
その様子を見て由希がくすりと笑う。
露店から少し離れた木陰に置いてあるベンチに2人で腰掛けるとひまりは爪楊枝でたこ焼きを半分に割り始めた。
「ひまりは半分にして食べる派なんだ」
「由希はひと口派?私熱いの苦手でさぁ。昔なんかアツアツのたこ焼きをひと口で食べて口の中火傷しちゃって、すぐ氷で冷やせーって…言わ…れ…て…」
「…ひまり?」
言葉に詰まって動きを止めるひまりを不思議に思い由希が顔を覗き込む。
ひまりはたこ焼きを見つめたまま目を何度か瞬きさせて、覗き込む由希よりも不思議そうな顔をして振り向いた。
「あれ?誰に…言われたんだろ?」
「…?」
暫くひまりと由希はお互いキョトンとした顔のまま見つめあっていた。
それに耐えきれなくなったひまりがぷっと吹き出す。
「あははっ。私が分からないのに由希が分かるはずないよね。ごめんごめん」
ひまりは笑いながら半分に割って冷めたたこ焼きを口に放り込んだ。