第4章 蓋
由希と夾は目の前に広がる光景に目を向けることが出来ず、お店の前にある2つのベンチにそれぞれ座り、片手で顔を覆っていたり目を背けて別の場所に視線を向けたりしていた。
買い物をしている女の子たちから、「あの2人カッコいい」などの会話とともに熱い視線を向けられるものだから更に居心地が悪い。
「楽羅は胸あるからいいよねー。私何にもないからさぁ」
「ひまり全く無いって訳じゃないじゃん!パッドいれて寄せてあげれば…」
キャッキャと女子トークを繰り広げるひまりと楽羅の会話が聞こえ、目だけではなく耳さえも塞ぎたくなる。
由希と夾にとってはある意味拷問状態。
早く終わってくれ。と切に願っていた。
そんなこととはつゆ知らずひまりと楽羅は楽しそうに水着を見て回っている。
「それ楽羅に似合うよ!可愛い!」
楽羅が持っているオレンジ色の小花柄のビキニをひまりが指差すと、少し照れたように「そうかな」と言ってその水着を体に当てる。
そしてそのまま夾と由希がいるベンチの方に体を向けた。
「夾くーん!見て見てー!似合うかなー?」
「こ、こっち向くな!話しかけんな!!」
顔を赤くして怒鳴る夾と、同じく顔を染めている由希が頭を抱えている姿を見て、ひまりと楽羅は顔を見合わせて吹き出す。
「夾も由希もピュアだよね。水着であんな風になるかね普通」
「そこがいいんだよー!可愛いなぁってなるでしょ」
「そういうもんー?」
ひまりは自分好みの水着を探しながら、よく分からん。と肩を竦める。
「あ、でも由希はピュアなのかチャラいのかわからないよね。女慣れしてそうなのに、水着ひとつで顔真っ赤にするし…」
「なになに??恋の話ですかな?お姉さんにお話してごらん」
楽羅はニヤニヤしながらベンチの2人に聞こえないようにコソコソと話しかけてきた。
そんな楽羅にアハハと笑いながら違う違うと答えるひまり。
「確かに、由希って男の子だったんだなぁ。って思って動揺しちゃったことはあったけど、恋の話とかそんなんじゃないよ。私には無縁だし。だから真っ直ぐに恋してる楽羅が羨ましいよ」
「…私は…ひまりが羨ましいよ」
「え??」
楽羅の言葉がうまく聞き取れず、ひまりは聞き返した。