第4章 蓋
自販機の前に着くと夾はまずお茶を2つ買った後、並んでいる飲み物たちをジーっと見つめ悩んでいるひまりを見る。
「お前どーすんの?」
「うーん…ストレートティーが飲みたいけど…サイダーも捨てがたいんだよね…」
選択肢は2個まで絞られているようだが、なかなか決まらない様子に夾は軽くため息を吐いてサイダーのボタンを押した。
「あ、ちょっと!」とひまりが慌てて言うのを無視して、今度はストレートティーのボタンを押す。
扉を開いてそれらを取り出すと、きょとんとした顔のひまりにストレートティーを手渡した。
「俺、炭酸。決めらんねぇなら俺の飲みゃいーだろ。欲しいとき言え」
「え!いいの!」
渡された、冷えたペットボトルと夾が持っているサイダーを交互に見てパァっと明るい笑顔になるひまり。
それを見た夾は、プシュッと音を立てて蓋を開けて飲んでいたサイダーを吹き出しそうになり、軽く咳き込んだ。
そして口元を手で覆うと、赤くなった顔をひまりに見せないように後ろに顔を背ける。
夾の行動を、苦しんでいると勘違いしたひまりは焦りながら彼の背中をバンバン叩き始めた。
「だ、大丈夫?気管に入った?!死ぬ?!生きる?!」
「生きるわ?!?!意味わかんねーこと言ってねーで、さっさとそれ捨ててこい!」
食べ終えたクレープの包み紙を綺麗に折り畳み、握りしめていたその手を夾が指差すと、忘れてた。と近くのゴミ箱へそれを捨てに行く。
「そうだ。お前、師匠ンとこに顔出しに行くぞ。心配してたぞ。ひまりに会いたいんだと」
師匠…草摩藉真。
夾や由希達に武術を教えているのと同時に、猫憑きである幼い夾を引き取り父親代わりをしている人物。
ひまりも草摩を出るまでは武術を教えてもらっていた。
ただ、ひまりには圧倒的に武術のセンスが無く、養われたのは回避能力だけだったが。
穏やかな雰囲気で、優しく全てを包み込んでくれそうな藉真のことを、ひまりは大好きだった。
「師範!会いたい会いたい!いつ?いつ行ってもいいの?」
ひまりは嬉しさから少し興奮気味に夾に詰め寄った。