第4章 蓋
今、ひまりの手には黄金色の生地に巻かれたふわっふわのホイップクリームにバナナ、その上に斜めがけされたチョコソースがクリームやバナナの上を滴っているクレープが持たれていた。
ひと口頬張ってみれば、噛んだ瞬間に分かる生地のモチモチさ。
更に滑らかなクリームに甘いバナナにかかるチョコソースが合わさって味も食感も…
最高を通り越して尊い。
「んぉいっしいーーー!!」
この瞬間を至福の時と言わずして、いつこの言葉を使うのだろう。とひまりは思った。
クレープ屋さんの近くにある公園のベンチで楽羅、ひまり、由希の順に座りクレープを頬張っている。
夾は「いらねぇよ。そんな甘ったりぃもん」と空気を読まない発言でベンチにも座ることなく、立ったままだった。
「ンで、これ食ったら次どうすんだよ」
家を出てからずっと不機嫌な雰囲気を出している夾がダルそうに聞くと、それを気にもしていない楽羅は満面の笑みで「次はねぇ」と話し始める。
「夏と言えば水着!買いに行こう!ひまりも欲しいでしょ?水着!」
「あ、たしかに全部燃えちゃったから持ってないや」
「でしょでしょ!ゆんちゃんもいいよねー??」
話を振られた由希は「今から…行くの?…俺たちも?」と少し気まずそうにしている。
「い、行かねーよ!み、み、水着なんて…お前らだけで買いに行きゃいーだろ!!」
「いいじゃん行こうよ夾君!せっかくのダブルデートなんだからさぁ」
「行かねぇよ。そもそもクソ由希と出掛けるのも…」
「あ??行くっつってんだろ」
顔を真っ赤にして拒否していた夾だったが、結局楽羅の威圧的な態度に負け、怯えながら小さく「はい…」と了承するしかなかった。
2人のやりとりを苦笑いで眺めていたひまりがクレープの甘さに喉の渇きを覚えて近くの自販機に目をやり、立ち上がる。
「飲み物買ってくるね。何飲みたいー?」
「わあ。ひまりありがとう。えーっと…お茶お願いしてもいい?」
「それなら俺も…」
「自分で選ぶ。行くぞひまり」
由希が、一緒に買いに行こうと言葉を発するのとほぼ同時に夾の声が重なりそのまま夾はポケットに手を入れ自販機の方へと歩いて行った。