第4章 蓋
そういえば由希って不器用だったなぁ。と一生懸命にラップを巻くその拙さにひまりは顔の筋肉が自然と緩んだ。
「これでよし…っと。キツくない?痛くない?」
「ありがとう大丈夫!あと上と下とテープで巻いてもらってもいい?」
二つ返事で了承すると、由希は不器用な手でぐちゃぐちゃになったテープを必死で巻いていく。
ラップもテープもガタガタで、自分でやった方が幾分かマシだったんじゃないかと思える程の出来栄えだったが、それでもひまりは嬉しかった。
何となく心が暖かくなるような感じがした。
「ありがとう!」
ニッコリ笑って見上げるひまりに、由希の心臓は跳ね上がる。
「うん。いつでも言って」と平然を装いながら赤くなった顔を隠すように、無駄になったラップをゴミ箱に捨てていく。
「ねえ、由希。楽羅から聞いた?今日のこと」
「ダブル…デートに行くってやつ?うん。さっき聞いたよ。…体調大丈夫?」
昨日、気を失ったと聞いていただけに、由希はそんなにすぐ動いてもいいものなのかと心配する。
「いっぱい寝たし、へーき!ありがとう。でも楽羅は2人で行きたいんじゃないかなぁ…邪魔するようで申し訳ない気もするけど…」
「ひまりは…嫌?デート」
由希が聞くとひまりは笑顔で首を横に振った。
「ううん!私デートってしたことないから…ダブルデートって響きにちょっとワクワクしてる!クレープ食べたりショッピング行ったりするアレでしょ?」
ダブルデートなるものを想像しているひまりはまるで遠足前の子どものように目を輝かせていた。
その姿に由希はフッと妖艶に笑うとひまりの頭を撫でるように指をそっと添える。
「じゃあ俺が…ひまりの"初めて"貰うね?」
「……由希。私昨日お風呂入ってないから頭皮デンジャラスだよ」
「ひまりは雰囲気ぶち壊す天才だよね」
渾身の攻めを頭皮デンジャラスというパワーワードで返され、由希は魂が抜けたように無表情になる。
「楽羅達待ってるし、ちゃっとシャワー浴びてくるね!」
そう言ってバスグッズを持って部屋を出るひまりに由希は「何だかなぁ」と落胆した。
だから気付かなかった。
ひまりの頬が少し色づいていた事に。