第4章 蓋
「ゆんちゃんおかえりぃー!」
帰ってきた由希が居間に入ると、予想外の人物から声をかけられ由希は目を丸くしていた。
「ただいま、楽羅…どうしたんだ?こんな朝早くから」
楽羅は胡座をかいて座っている夾の首に抱きつきながら、由希を見上げて嬉しそうに笑った。
「ひまりに会いに来たんだよ!もちろん夾君にも!ねー?」
「週3日は道場で会ってンだろうが!!そろそろ離れろ!!」
嫌がって引き剥がそうとする夾に、決して離れない楽羅。
二人のじゃれあい?を由希は無視してひまりの姿を探していた。
「由希君おかえりー。ひまりなら上にいるよ。出掛ける前にシャワー浴びたいから用意してくるーって」
トイレに行っていたのか、居間に戻ってきた紫呉の言葉を聞いて由希は首を傾げた。
「出掛ける?」
「そう!出掛けるんだよ、ゆんちゃんも!ダブルデート!!」
少し頬を赤らめて、ね?と夾に同意を求める楽羅だが、当の本人は眉間にシワを寄せて不機嫌そのものの表情だった。
「ふざけんな。俺がいつ行くっつったよ。そんなに行きてぇならお前らだけで行けよ」
「行くっつってんだろぉがぁ?!ぁあ?!」
「夾くーん。往生際が悪いよー」
夾にヘッドロックを決める楽羅に、加勢する紫呉。
この場に夾を助けようとする者はいなかった。
もちろん由希もそんなことする筈もなく、居間をあとにするとひまりの部屋へ向かった。
二、三回ノックをすると、中からどうぞー。と声が聞こえ、由希はドアをあけた。
その瞬間、由希は目の前の光景に目を丸くさせてから、笑ってしまった。
なぜならひまりはぐちゃぐちゃになったサランラップを持って、困り果てたように「ちょっと由希たすけてー」と眉尻を下げていたのだから。
「ふふっ。何してるの?ひまり」
「シャワー浴びたいから包帯を濡らさないように…って思ったんだけど、なかなか上手く巻けなくて…」
「俺がやるよ。こっちおいで」
由希はひまりからサランラップを受け取ると、差し出された腕に慎重に巻いていく。
巻いていくと更に腕の細さが強調され、壊れそうなその腕に由希は少し緊張しながら作業を進めた。